18.予定変更
冒険者ギルドに向かうと、いつも以上に賑わっていて二人は首を傾げた。
「ジュエルシリーズが出たぞ!!」
その言葉で理由がわかって、面倒な時に来てしまったかなんて思いながら建物の中へと入った。
──ジュエルシリーズ。
それは、体全体が宝石でできた魔物のことだ。
この国の中でだけ現れるレア中のレア魔物。一体仕留めればしばらくは何もせずに暮らせるくらい高値で売れる。
「どうする?やるなら出ない場所を教えてもらって行くしかないな」
「小さけりゃなんとかなるかもしれねぇけど、大物だったら手に負えない。今日はやめとくのが無難かもな」
宝石の名に違わぬ輝きと頑丈さ。そして内包する魔力はすこぶる強い。魔石が出れば更に天井知らずの値がつく。
小さくても馬鹿にできないが、小さい方が凶暴性が低く逃げやすい。
運がないなと二人して溜息を吐いて、来た道を戻ることにした。
二人は無理をしてまで稼ぐつもりはなかった。一応、余裕を持って資金を運用している。
「夏になったら帰省もするし、こういう予定外は困るよな」
「そうだな。早めに討伐されるといいけど」
ハロルドの警護をする人間からすれば「いや、本当にありがたい!」という感じではあるのだが、一方で勇者の力を持つ少年は意気揚々と討伐に向かったらしいので、彼の担当は冷や汗物である。
実際にその時現れた魔物は熊の成体ほどの大きさだった。高ランクの冒険者も招集されて一部地域は閉鎖されるほどの騒ぎになりつつあった。
ハロルド達の実力は年齢を考えれば優秀と言っても差し支えない物ではあったけれど、それでもそこまで強い魔物を倒せるような実力ではない。また、アーロンはともかくとしてハロルドは戦闘スキルを持っているわけではない。鍛えてはいるけれど、剣の腕もそこそこだし、弓は不得意である。おそらく本質的に戦士ではないのだ。魔法があるから工夫をして戦えているだけなので、どんな魔物でも自分ならば倒せるだなんて思わなかった。
(かといって無双したりするのも俺の柄じゃないしな)
ただでさえ教会をなんとかしてもらっている身だ。それこそ強い武力や聖なる力とやらを持っていたらあれくらいで諦めはしなかっただろう。
最近では干渉が少なくなっているが、油断はしないでほしいと言われている。
「予定空けてきたからな……。何する?」
「帰って本でも読むかな。アーロンはどうする?」
「俺も復習でもすっかな。期末の結果が悪かったら補習で帰省できねぇしな」
母親や弟妹が心配なアーロンは長期休暇くらいは確実に戻っておきたかった。その気持ちもわかるので、ハロルドも頷いた。
帰ってから鉢植えを見ると、最近買った花の芽が出ていた。
「あ、芽が出てる」
「普通に育てりゃ、普通に出るだろ」
「いや、花屋さんがどうやっても芽が出ないからってタダでくれたやつだったんだけど」
「なんでそんなもん育ててるんだ?」
アーロンの問いに「興味があったから」と返して、「本当に花なんか咲くのかな」と思いつつ本を机の上に乗せた。
何でも、水晶のような美しい花が咲くらしい。不思議な種子だし、そんな花があるだなんて眉唾物ではあるが、少しだけ楽しみだとハロルドは笑った。
ちなみに教会からの干渉が減った理由は「聖女が召喚されたため」。