42.見守るモノたち
国王リチャード・ダイヤ・エーデルシュタインは本気で頭を抱えていた。
「あの子……目を離すと死ぬんじゃないか?」
あの子、が指すのは息子の友人であるハロルド・アンバーのことである。
直前で倒れたことや、そもそも王国でなんとかできると踏んでいたため、リチャードたちは「ハロルドは休んでいてもらおう」という判断をしていた。
だというのに、神が好き勝手したせいで結果的に一番被害を被っている。本人は平穏な時間を求める普通の男の子なのに。
「起きうる災害について、聞くことができたのは幸いでしたが……神はどうしてこんなにあの子を構うのか」
「本人が力を使って世界征服やら国家転覆を企むような性格じゃねぇのがデケー気がするな」
「陛下、言葉遣い」
宰相であるカーティス・アメシストに注意されるものの「いいんだよ、俺とお前しかいねぇんだから」と不貞腐れた顔をした。
「ハロルドが起きたとはいえ、脅威が全て去ったわけではない」
「ええ。ミライの起動は続いており、彼の要望通りにしていますが……本当に矢面に立たせるおつもりで?」
「させたくねぇんだよ。俺だって。だが……下手にアイツを外すと、今回みたいに余計な横入りが入る気がしてならねぇ」
相手が人ならばなんとでもできる。
けれど、ハロルドに突撃してきているのは神である。その強大な力に対抗する術はない。
歯痒さがないとはいえない。
守るべき存在を守りきれない。
現在いる加護持ちの中で最も多くの神の加護を得ているから、おそらくハロルドが集中して狙われているだけだ。
リチャードの息子、ルートヴィヒだって十分に狙われる可能性はある。
「このままでは、すまさない」
国を、民を守る責務がある。
背負うべきは本来自分なのだと彼は知っている。
黄金色の雲の中。荘厳なる神殿がそこにはあった。
その中で赤く、座り心地の良い椅子に座っている美しい女がいた。
雲と混ざるような金糸のごとき髪が美しい。
「分かっているのね。けれど……ええ。そうね。あの方々が勝手をするから」
呆れたような声音すら鈴が鳴るような美しさだった。
琥珀色の瞳が、夫に向けられる。
今回何をしたわけでもないけれど、自分に尻を蹴飛ばされるまで何の罰も与えようとしなかった。可愛い子はそのせいで倒れてしまった。
「ヴィー、言いたいことがあるのなら言ったらどうだ」
「妻子の暴走を止められないなら、その筋肉になんの価値があるのかしら」
フォルツァートは項垂れた。
女は彼の妻の一人。美の女神ヴィーナだ。
美の女神というだけあって、ハロルドに目をつけてはいたが加護も祝福も与えてはいない。
なぜなら。
(これ以上の美しさは、国どころか世界を傾けかねないわ)
今でも美しさが毒になっている。
哀れだ、と眉を下げた。
「だいたい、あなたさま。ユースティアが子供達を教育し直すついでに、あなたさまも教育し直そうとなさったからここに逃げてきたのでしょう?」
「ティアは天秤まで持ち出してきたからな」
「言葉では直らないと踏んだのでしょう。ここ数十年の四季はほとんどエスターの助けで巡っていたことを知り、あなたさまがまた要らないことをしようとなさったのを知ってるからお怒りなのでしょう?」
「今回はアイツに怒られる筋合いはないが!?」
フォルツァートは力を欲するロナルドに追加でスキルを与えようとして、ユースティアにブチ切れられ、追いかけられていた。
愛し子にスキルを贈って何が悪いのだ、そう思っているのがわかる。それに溜息を吐いて、「出て行ってくださらない?」とヴィーナは爪の手入れを始めた。
「わたしは美しいモノが好きよ。あの可愛い子……ハロルドも好きだわ。けれど、わたしの加護はあの子のためにも、人間のためにも、世界のためにもならないわ。だからわたしは加護をしない。あなたさまはご自分の影響をこれっぽっちも考えていらっしゃらない。腹が立つわ。反省するまでわたし、会いたくなくてよ」
指先で椅子のアームを二度叩く。すると、フォルツァートの尻の下の雲が消えた。
野太い悲鳴が聞こえたが、どうせ行き先はユースティアの神域だ。
「……枕元に珍しい花の種でも置いてあげましょう。少しでも心が癒されてくれれば良いのだけれど」
美の女神 ヴィーナ
フォルツァートの妻の一人。めっちゃ美人。ヤベェ美人。
神代、その美しさからちょっと色々あった時に助けてもらったことがきっかけでフォルツァートの妻になった。




