39.苦労人と苦労神1
ハロルドは自分の意識が落ちたと思った。
そうしたら、いつのまにか砂浜に寝転がっていた。意味がわからず瞳を瞬かせる。
(青い空、青い海……南国か?昔、テレビでこういう観光地見たことあるなぁ)
起き上がろうとすれば、影が落ちた。
そこにいたのは、赤髪の青年だった。寝転ぶハロルドを見下ろしている。日に焼けた肌は健康そうで、瞳の金色は太陽を思わせる。にっと笑った時の白い歯が印象的だ。
「よっ!」
「……えっと……初めまして?」
「おう!」
気の良い兄ちゃんにしか見えないが、この不思議な現象と、気を失う前の出来事から「今度はどこの神様でしょうか?」とどこか警戒するような声で問う。
そんな様子に苦笑した青年が移動すると、ハロルドは立ち上がった。
「某は四季の神の一角。夏を司るエスターという。この度は我が母と兄が迷惑をかけた」
「母……兄……?」
「ユースティアとネーヴェだ」
思い切り嫌そうな顔になったハロルドを見て、エスターは「それはそうだよな」と苦い顔をする。
「兄のせいで身体がボロボロになった分は、某が直しておいた。不具合はないか」
そう言われて軽く身体の調子を確かめる。変わったところはなさそうだ、とホッとした。
「フォルテ様の寵愛レベルの加護がなければ、ちょっと命も危なかったからな。無事でよかった」
「アルス様」
ひょっこりと顔を出した知り合いの神に、ハロルドはようやくホッとした顔を見せた。
「あれは僕にとっても異母兄でな。すまなかった」
「いえ、考えなしが一番悪いので」
ハロルドはそう言うが、エスター的には「アレも考えての行動なんだよなぁ」という気持ちである。
(いや、ある意味では考えなしか)
神と人間では価値観も思考回路も異なるのだ。だからこそ、下界の生物に対しては慎重に関わらなくてはならない。それが、他の神にも愛された存在であるならば尚更。
「兄様は考えた上でやらかしたダメな子ですよ」
「ネーヴェ兄貴、コミュニケーション能力が死んでるからこっちの斜め上の出来事やるんだよな」
声がいきなり聞こえて振り返る。
そこには二人の美少女が立っていた。
一人は青いリボンのついた白いつば広の帽子、白いワンピースで髪が青紫から淡い青色になっている。赤い瞳は不機嫌そうなジト目になっている。
もう一人は赤いリボンがついた黒いビキニスタイルの水着を着ている。黒い髪についたハイビスカスの髪飾りが可愛らしい。
神というよりはバカンスを楽しんでいるお嬢様というスタイルだった。
オルタンシアとドンナはお兄ちゃんの神域で久々の休暇を楽しんでるだけ。
普段は違う格好。




