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16.王子様の婚約者




 第三王子には婚約者がいる。

 その存在を知ったハロルドは微妙な顔をしていた。



「まぁた、お前かよ……」



 ロナルドを見ながら「勇者がなんぼのもんじゃい!」という気分になる。国が頭を抱える存在であるので、厄介なほど力が強いのだろう。


 マラカイト公爵家の一人娘だというその少女は、丁寧に編み込まれた美しい緑色の髪に、藍色の瞳を持つ。愛らしい顔をしているのにどこか毒を感じさせるのはハロルドが今世の母親のせいであまり異性に夢を見ていないからかもしれない。

 一見すれば姫君のような容貌の少女は、軽く探りを入れただけでも地雷原みたいな女だった。

 その女が幼い時から年下の婚約者の努力をせせら嗤い、プライドをへし折って“何もできないお荷物王子”という評価を作り上げたのだからタチが悪い。



「あんなのが王族の婚約者ってマジ?」



 アーロンが開いた口が塞がらないと言った様子で呟いた。

 婚約者がいるというのにロナルドと腕を絡ませて蕩けるような表情で話しかけている。笑みにすら媚を感じて、ハロルドは頭を抱えた。思い出されるミィナの態度の上位版であった。



「最近の上位貴族って品がないね。遠くからしか見たことないけど、僕の妹の方がよほど上品じゃないかな」


「お前、妹いるんだ?」


「うん。兄上と違って怒鳴らないから嫌いじゃない」



 貴族家庭の闇を知りたいわけじゃないのに、最近ちょっとだけ垣間見てしまっているのは知り合う人間の身分が高かったからだろう。

 そして、公爵家の一人娘の地雷っぷりはハロルドについていた影を通して王家に報告されていたりするが、それは彼らの知らないところの話である。


 ちなみにハロルドたちが彼女について知ることになったのは、ルートヴィヒと一緒にいる時にマラカイト公爵令嬢が彼に八つ当たりをしにきたからである。その際、ハロルドの美貌に目をつけた。分かりやすくしなをつくる彼女にルートヴィヒの目が冷え冷えとしていた。

 ルートヴィヒは「なんでこんな奴に悪口言われて自信無くしてたんだろう……」と思いながら友人を見た。友人はさらにゴミを見るような目をしていた。口元は笑っているけれど、それはただの処世術であることはなんとなく察している。

 迷惑になるから友人に近づくな、と注意をしたルートヴィヒにくすくすと笑いながら「まぁ、怖い」と言った婚約者の目は笑っていなかった。ルートヴィヒが婿入り予定であるからか、やたらと自分が上だと示したがる。



(よく考えたら私が萎縮する必要はないな?婿入りした後ならまだしも、私の方が今の身分が上なわけだし)



 ハロルドたちが吹き込んだ成果ともいえる思考回路である。あまりにも自己評価が低く、いつも俯いていたので三人で励ましたりしていた。

 どうやったら婚約者にダメージを与えられるだろうか、と思い始めたルートヴィヒは悪くない。

 よく考えずとも、幼いときの2年は大きな差だ。能力的にその時の彼が劣っていても仕方がないのだ。

 試験の時だって前日に勇者の勇姿を見に行くとかで散々付き合わされ、体調が悪かった。試験から帰ったら無理をしたためか高熱が出て、数日寝込む羽目にもなった。


 マラカイト公爵家が王宮に人を送り込んで娘に都合の良い王子にしようとしていたのに、周囲にいる人間が変わったせいかルートヴィヒの考え方が変わりつつある。

 少しずつ教育内容を変えたり、侍女や侍従を交代・買収したりと段々彼の味方を減らす事で自己肯定感の低い、意のままになる王家の血を手に入れようとしていた。それが「あれ、この状況はおかしいな」と思うようになった。一度そうなれば、なかなか思うようにはいかなくなっていく。





「まぁ、厄介な事になりそうなら少しくらい手を出しても構わないだろう。向こうのように“お気に入りに手を出されて神罰”、のようなものではないのだし」



 あのフォルツァート(おとこ)と違って、と女神はどこか怒りを宿したような目で下界を見つめた。

 加護を加えた少年の住む国なのだから、できるだけ、かの神のやらかしによる被害は少ない方がいい。友人になったらしい少年の精神的な負担を権能を使って少しだけ減らしてやるくらいは構わないだろう。そう思いながらそっとハロルドに祝福を足した。周囲にいる者にささやかな幸せが訪れるように。



「でも、この子……。まぁ、あの神が捨てるのならば貰っても構わないだろう」



 本当に資格があったのは誰だったのだろうね、とその唇が紡いだ。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

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