23.狙われる者たち
家の近くから現れたシャルロットは、エリザベータを見送るハロルドに「良かったのですか?」と尋ねる。
その理由に思い当たって、ハロルドは苦笑した。
「俺は彼女の婚約者であって、護衛対象ではないですからね」
戦力として、彼女ほどの人材はそうは居ない。
けれども、だ。
(単純な戦力だけだと、シャルロットさんの方が確実に強いし、アイマンさんもいるから……うん。戦場に出るつもりも今のところはないし、今回はエリザがいなくてもなんとかなるはず)
アーロンも自分といるよりは王城にいた方が安全だろう。友人たちから1人だけ離れているのが少し寂しいが、それだけだ。彼らが安全ならその分安心していられる。
「早く全部終わってほしいですね」
「全くです」
二人はやれやれと肩を竦めた。
ハロルドの強化されたらしい鑑定の魔眼は今の所、発動していない。
狙われていると直接言ってはこなかったが、あれだけ女神たちがちょっかいを出してきたのだ。おそらく狙われているのは自分だろうと推測できる。だからこそ、それを不気味に感じる。
「……英雄、か」
「何か言いましたか?」
「いいえ、特には」
英雄になることができる人間が、こんなにも無力感を覚えるわけがないだろう。そう自嘲した。
けれど、今でさえ満足に扱いきれないほどの能力を抱えているのだ。
そんな呼び名に、自分ほどそぐわない人間はいないだろう。そう判断せざるを得ない。
「ハルー!珠にお手紙届けてきたわよ!!」
「ボク、ウィリアムのとこ」
帰ってきた妖精たちの言葉で我に返る。
褒めて褒めてと言わんばかりのキラキラした目に負けて、彼女たちの頭を撫でた。
「竜が、泣いてる」
濃紺の髪の少年が窓の外を見ながら呟いた。美しい瑠璃色の瞳は悲しみに翳っている。
少年はデイビッド。
今はオブシディアン辺境伯家に保護されているが、その実情は『監視』だ。
かつて、毒を飲まされた状態で雪山に遭難していたデイビッドは、女神フォルテの神子ハロルドと神獣フェンリルの加護を持つアーロンによって発見された。
彼は何も覚えてはいなかったけれど、その暗い夜の海にも似た髪色と、美しい瑠璃色の瞳。それは隣国マーレ王国でも珍しい高貴な色だ。
そんな彼の呟きに、黒髪の少年が「泣いている?」と返した。
「ゴーダ様」
「お前、ドラゴンの言葉が分かるのか」
「えっと……はい。子どもはどこだ、血の臭いがする。子を返せ。そう……嘆いているようです」
「ドラゴンの子を害そうなど、どんなバカだ」
黒髪の少年はゴーダ・オブシディアン。
ハロルドたちより二つ年が上で、ロナルドと同じ学年だ。ガタイが良く、成績もかなり優秀だ。それ故にロナルドに絡まれることもある。
彼は辺境の土地、ハロルドたちの故郷の村がある領地の主、その子息である。
「やはり、お前はマーレ……それもかなり高位の貴族出身の可能性が高いな」
ゴーダの言葉に、デイビッドはかなり嫌そうな顔をした。
彼は、高貴な血筋の可能性があることからオブシディアン辺境伯家で丁重に扱われていたし、ハロルドとアーロンに恩も感じている。敵国、といってもいいだろうマーレ王国との縁なんて不必要だと考えていた。
「むしろ王族などであれば都合が良いがな」
「ああ。一回滅ぼして私が治めればいい、と?」
「今の王族よりはかなり上手くやれると思うが」
その言葉に呆れたような顔で「ただの間抜けな平民かもしれませんけど」とデイビッドは言うけれど、ゴーダはそれを鼻で笑った。
どこに帝王学を学ばされる平民がいるというのだ。
(最終的にこれをどう扱うかは陛下と親父次第だがな)
鳴き声どころか姿ですら黒い影にしか見えない場所で、ドラゴンと心通わせる人間。
そんな存在を知ればマーレ王国の連中は担ぎ上げるか、殺すか。そのどちらかで確実に動く。
「さて、ヤツらはどちらに来るか」
チェスの駒を摘んで、ゴーダはそう呟いた。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!!




