21.神獣の報せ
ミハイルの顔色も良くなったので、これで安全になっただろうと判断したハロルドは大人しく家に戻った。あちこち走り回って厄介ごとに巻き込まれるのは避けたかった。
ただでさえユースティアが出張ってきたおかげで彼女を祀る教会の神官がウキウキとアップを始めている。幸いかな、彼女の信徒は法を厳守する。嫌がるハロルドを無理矢理表舞台に立たせようとはしない。
それでも、「我らが女神の神子様が、ちょっとでも頼ってくれたら、敵なんて分厚い法律書でぶん殴っちゃうぞー」みたいな考えはバッチリ持っていた。ハロルド側に立つ人間はいつもちょっと過激だった。
家に帰ると、すでに厳戒態勢が敷かれていた。一見そうとはわからないけれど、あたりには聖騎士やら王太子直属騎士団やらがわんさかいる。(不本意ながら)王城に通っているのでハロルドは少し気づいたけれど、アーロンたちは「今日はやけに人通りが多いな」くらいの感想だった。
「なぁ、お前本当にガッチガチに守られてるんだな」
「基本は」
「薬師の兄さんやら、エリザベータ嬢と旅なんてしてたからあまり大袈裟にはなってないと思っていたよ」
「あれは薬師の兄さんに無理矢理連れて行かれたが正解ですよ。あと、友達のお兄さんが死にかけているのも心配でしたし」
神は良くも悪くも人を引っ張り回す。薬師の兄さんことアルスは人間に紛れ込んで学生をやったりもする神である。
だからこそ比較的、人に対する気遣いがある。それでも人外目線で色々とやらかす。それがあの旅であった。
「ドラゴンがどこかで死んだ」
家に入ると、白い髪に青い瞳の子どもが鋭い視線で遠くを見ている。アーロンが名前を呼んだことで、全員、その男の子がスノウであることを知る。指さす先は冒険者ギルドの方角だ。
「アーロン。場所の特定をしろ。親が怒り狂っているぞ」
「場所ぉ?……あの割とデカくて黒い群れのすぐ近くかな!」
アーロンの指差した先の空が黒く染まっている。
その正体がわからぬほど鈍感な者はいなかった。
「ああ、嘆きの声が聞こえる」
スノウはそう言って瞳を伏せる。
家族を大切にする生き物であれば、子を亡くした親の嘆きはいかばかりか。
(まぁ、母親の死を嘆くこともできなかった俺が言えることじゃないけど……あまり良い気分じゃないな)
狼藉者が早々に痛い目に遭うことを願うしかなかった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!!




