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15.ひとりぼっちの王子様




 学園生活にはだいぶ慣れて、質問をしにきていたクラスメイトも文字を覚え、自力で勉学に励めるようになってきた。それを周囲に褒められてご満悦の担任ではあるけれど、学園長には国からのきちんとした評価が届いている。加護を持つ少年についた護衛からの忌憚のない意見には頭を痛めるしかなかった。


 魔法実技の授業でハロルドたちは上位クラスの生徒と一緒になった。Cクラスとの合同授業になった理由は、実技担当教諭の一人がギックリ腰で起き上がれなくなったことに起因する。そのことで授業の一部を合同にする他なく、合同授業を行うことになった。

 二人一組になって、と言われたがブライトともう一人が避けられていた。ブライトが避けられているのはたまにやらかしているためである。折れた木を見て「次は我が身」と思った人間がいても仕方のない話だ。


 もう一人はなんとこの国の第三王子であった。

 ルートヴィヒ・クローディス・エーデルシュタイン。

 側妃腹で婿入り予定の第三王子は婚約者に馬鹿にされ、勇者と浮気され、優秀な兄や姉たちと比べられてすっかりと自信を無くした少年だった。母と同じ銀色の髪にアイスブルーの瞳、俯きがちであるからあまりそうとは思われないが顔立ちは確かに父である王に似ていた。



「どっちがいい?」


「ブライトが向こうと組むっていう……怪我させたらやべーな」


「そうなんだよね」



 貴族なんだからブライトとルートヴィヒが組めばいいと思ったアーロンであったが、一瞬で考えを改めた。ブライトは今にも泣きそうな顔だ。「弟が泣く寸前と同じ顔だぞ、アレ」とはアーロンの言葉である。

 ハロルドとアーロンは顔を見合わせて、溜息を同じように吐いた後二手に分かれた。

 ハロルドがルートヴィヒ、アーロンがブライトのところへ向かった。



「ルートヴィヒ殿下、三人組で一人溢れてしまいまして……ご一緒してもよろしいですか?」



 ルートヴィヒが顔を上げると、ハロルドはニコッと笑顔を作った。なぜだか知らないがこの王子には周囲に側近もいないようだ。



「私と組んでも、楽しくはないと思うが」



 その口から出てきた言葉に「いや、授業が進まないからだよ」という現実的な言葉が出そうになったが、「そんなことはありませんよ」と穏やかに微笑んだ。



「私の方こそ、ご迷惑をおかけするかと思いますがこの授業の間だけでもよろしくお願いいたします」



 そう返せば、視線を彷徨わせて戸惑うように頷いた。

 ルートヴィヒの自信のない様子を怪訝に思いながら周囲の反応も探りつつ課題をこなす。


 授業の時間も終わりに近づいた頃、だいぶハロルドに慣れたルートヴィヒは、自分の知っていることを教えてくれる余裕も出始めた。その時だった。



「婚約者すら繋ぎ止めることができない落第王子のくせに」



 小さな声で嘲るような言葉が聞こえた。誰が言ったかはわからないが、その直後からルートヴィヒの表情に翳りが見えた。



(誰かは知らないけど、相手王子だぞ?身分を考えろ、身分を)



 犯人は分からないけれど、少なくともルートヴィヒは自信がないだけで授業に関していえば所々ハロルドに解説をしてくれるくらいに詳しくもあった。ハロルドは自身が無知なだけかもしれないけれど、平民の子供にも分かりやすく説明をしてくれる目の前の少年が落第と呼ばれるのは腹立たしいし疑問だった。



「ごめん。嫌な気分にさせたね」


「いえ、私から見れば殿下は親切で優しく、優秀に見えます。落第なんて言うやつの気がしれない」



 そもそも、本人に聞こえるようにそんなことを言う人間の品性を疑う。



(というか、婚約者を繋ぎ止める云々って何だ?相手は浮気でもしてるのか?)



 そんなことを考えていると、ルートヴィヒは目をまんまるにして、それからどこか嬉しそうに「ふふ」と笑みを溢した。

 そんな彼を見ながら「バカにされてるのに呑気に笑ってるんじゃありません!」と言いたくなるのはハロルドが三十路を超えた男の記憶を持っているからだろう。現代日本であり、家族であったならば彼はきっと証拠を持って直接警察に持ち込み、頑張って相手と法律で殴り合っただろう。


 この日を境に、元々敬遠されていたルートヴィヒはなぜかハロルドに懐いた。

 その結果、彼の婚約者が2歳年上でよりにもよって()()に引っかかっていたことを知り、うっかり「性病怖いから婚約解消する方がいいんじゃないかな」なんて考えてしまった。幼馴染の母親に手を出すのだから年上が好みなのかと思っていたけれど、ある程度容姿の整った女ならば誰でもいいのかもしれないとハロルドはちょっぴり気分を悪くした。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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