13.止まるもの、止まらぬもの
教会からのお手紙は国を経由して、内容が10代前半の少年に渡していいものだけがハロルドのところに届くことになった。結果、ウィリアムの書いた手紙くらいしか届かなくなった。単純にハロルドを気遣い、心配するような文章に「やっぱり聖職者も頭おかしい奴等だけじゃないんだな」とホッとする。
家が用意でき次第の引越しになる。こっそり警護についている者たちもいるが、割と気楽で勇者についている同僚に「代わって!!」と泣きつかれている。
冒険者活動で出歩くのは勇者と変わらないが、無茶なことをしないだけで手間が違う。学園の勉強もしっかりとしていてプラスで薬学なども学んでいて勤勉さも窺える。
何より、護衛が感心したのはクラスメイト数名に勉強を教えていることである。
「生きるために魔法覚えたのに、卒業できなくて封じられるの洒落にならないよな」
教えて欲しいとやってくるクラスメイトに対しては、アーロンと一緒に勉強をしていた。ブライトは特にガンガン詰め込みをされている。彼は疎まれていたとしても貴族出身なので、力がコントロールできて勉強ができればそれだけで選べる未来はよりどりみどりなのだ。アーロンは「それで勉強しないのはバカ!!」とハロルドより必死なところがある。
逆にある程度勉強ができなくても魔力さえあれば、勇者のように成り上がれると考えてハロルドたちを見下す者もいた。
わざわざバカにするために絡んでくるあたりが厄介であるが、「ああいうのが“バカに力を持たせると碌なことにならない”って思われる例だよ」と口元だけ笑っているハロルドに言われた必死に勉強する組は「なるほど」と頷いた。確かに暴力を振りかざす人間は魔力を封印された方がいいと思わされてしまった。
そして、自分には才能があると両方を笑う裕福とまではいかないが王都近辺に住み、そこそこ恵まれた家庭で多少の手ほどきを受けてきた者たちもいた。
文字を覚えたばかりの連中に負けるわけがないと考えている。教える手間がかからないことで、担任も彼らを贔屓していた。
現状ではFクラスにいるメンバーはそんな3グループに分かれていた。
「ハル、俺らはなんでこんなに勉強してるんだろうな」
「知識がないと、知らない間に毟り取られて素寒貧だからだよ」
「穏やかに言ってるところが怖い」
ブライトが怯える中、予習復習に余念がない二人は「だよなー」と笑い合っている。そして、それは一応貴族ではある彼も一緒であった。次男で親に疎まれている彼は自分で身を立てなければ立場は二人と変わらない。あっさり騙されて死ぬ可能性を彼らとつるみ始めてから考えるようになった。
(貴族に生まれて勉強ができないっていうのも立派な虐待だったんだね)
どこででも野垂れ死ね、ということだったのだろうと考えると「本当に愛されてないな」と思う。ブライトにしてみれば、こう生まれたのは自分のせいではないのに不条理ではある。母が精神を病んだとかなんとか父は言っていたけれど、その後に妹も生まれているのだ。ただただ自分のような化け物を目の前から追い払いたかっただけではないか、としか思えない。
平民と混ざれば、それでも敵対する者をある程度追い払えて、生きる力があっただけマシだったようにも思う。権力者に目をつけられた姉が無惨な姿で見つかった、食べるものも少ないのに容赦なく税を毟り取られて死ぬところだった、などと話す者もいる。
恐怖を与えてしまったらしいハロルドには申し訳ないと思うけれど、幸運だった。
ブライトはそんなふうに思いながらペンをくるりと回した。
気をつけなければペンも持つことができなかった彼は、小さく口角を上げた。冒険者ギルドで彼らが掛け合ってくれたおかげでようやく生活に困らない程度になれた。学園に通い始めてからではきっと今でも文字を書けないままだった。親と兄が言うように“化け物”のままだった。
「とりあえず、次の休みは狩りに行くし、その分もしっかりとやっとかないとね」
「肉が欲しいよな」
「僕もお肉食べたい」
三人は割と食いしん坊なので、その分真面目に勉強に向き合った。
勉強をしながらハロルドは「寮に帰ったらあのキノコ乾燥させとかないとな」と考えながらメモを取った。
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