22.欠けている
「この家のことはともかくとして、ローウェルさんはよかったの?面倒に巻き込まれてるけど」
「ああ、構わないよ。というか、父上に届けられた釣り書き見ていたら、私が動いた方がマシだし、その連中に比べたら君の方がはるかに良い」
キラキラした笑顔でそう言うローウェルに顔を引き攣らせる。
ブライトは仕方がないか、と母親の家の養子になることには同意した。そうなると、その家の嫡子になったブライトには婚約者が必要であった。なので、その枠にエトナ・オパルス子爵令嬢を突っ込めば万事解決、とガーネット伯爵が言い出した。脳筋め、と舌打ちしたのは記憶に新しい。
「まぁ、実際いつだって傷物扱いされるのは何でか令嬢の方だし、次がなかなか決まらないって可能性はあるけどさぁ……僕だったらなんの相談もなく、今度はクズ極めてる元婚約者の弟と婚約しろなんて言われたら烈火の如く怒るよ?」
「ああ、だからまだ言ってない。なんとか口説き落としてくれ」
「僕にそんな情緒あるわけないでしょ。僕が企んだわけじゃないんだし、そっちとジジイでなんとかして」
生涯独身でもいいか、とすら思っていたブライトは露骨に嫌そうな顔を見せる。ローウェルはカッと目を見開いて「我が妹が、口説くに値しないとでも?」とかいいだしたけれど、ブライトは溜息を吐くだけだった。
「僕にそういうのは期待しないでよね」
友人が自分の陣営に引き入れた青年に緩く手を振って背を向ける。
どうしても婚約者が、自分の血を引いた子が必要だと言われても、それが価値あるものだと思えはしなかった。そして、それを断れるほどの力もない。であれば、優先されるのは「ハロルドくんたちの邪魔にならない子」である。
(だってさぁ、目の前で魔物の頭をぶっ飛ばした、力の加減ができない子に手を差し伸べられる人なんだよ)
あの、一瞬かもしれない出来事はブライトの中で宝物のように輝いている。初めて人に手を差し出されたあの喜びを、一体何が越えられようか。
少なくとも、ハロルドのためであれば多少の我慢はしても良いか、と思えはする。今回はやり口が気に食わなかったため、多少暴れはしたけれど、それでも最終的には思惑に乗っている。
あの大人たちは、ブライトが友情を結ぶことができたから、結婚や家族を作っていくことも問題がないのだと思ったのかもしれない。けれど、ブライトは自分が欠けていると知っている。一番大事なものはハロルドで、その次に友人。そして、他はその他。
(僕と縁を結ぶのがマシ?そんなわけないじゃん)
大切でないもののための心を砕くことはできない。放って置けないと感じることはあるけれど、それが友人たちに害を及ぼすのであれば、簡単に見捨てることもできるだろう。
家族だった者たちが、無理やりに引っ立てられて馬車に乗せられる。それを見ても何を思うこともなかった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
ブライトのガチ舌打ちはレア。




