21.ベキリー家と惨状
学園から連れ戻されたレスターは捕まっている両親と妹、そして「おかえり〜」と呑気に笑っている弟を見て唖然とする。完全に立場が逆転している。それは彼に取って許し難いことでもあった。
「さて、なんでこうなってるかわかる人いる?」
「知るわけがないだろう!」
「え、父上に自覚ないのさすがに嘘でしょ。色々あるじゃーん!まず違法に高い税率に、国への報告も適当に数字ごまかしてちょろまかしてたでしょ?あと、僕を未亡人のご婦人に売っぱらう予定だったっていう情報も入ってるから人身売買とかの容疑もかかってるね。平民が運営する商会への不払いと圧力。……全部お金絡みじゃん」
ドン引きである。
ブライトは「証拠があるのか」と自信満々に言う父を見て「無能だなー」と思いながら溜息を吐いた。あるから騎士が動いているのである。
それでも爵位を奪い取るには年数が足りなかった。ただし、その年数を待っていれば領民に与えるダメージはそれこそ深刻なものとなる。
(そこまでして痛手を与えたいわけじゃないしなぁ。というか、空腹って辛いし、平民の生活って全員が必ずご飯が食べられるわけじゃないもんねぇ。ただでさえ大変そうなのに、こんなアホのせいでお腹空かせる生活続くのマジで可哀想〜無理〜)
ブライトは腹ペコ属性男子だったので、すでに食事を切り詰め、少ないが餓死者が出ている現状で伯爵家を残しておくメリットを感じられなかった。
「酷いです!ブライトお兄様!!わたくしたちが何をしたって言うんですか?」
悲劇のヒロインといった様子で涙を流す妹を見ながら、「さっきの話聞いてなかったのかなぁ」と首を傾げる。だいたい、これが酷いならブライトに毒を盛ったり暗殺者を差し向けてきた両親は鬼畜ということになるのだが、その辺りは考えているのだろうか。
「オパルス嬢を虐めてた君が酷いとか、よく言えるね。ちょっと感心する」
「それは意見の相違ですわ。わたくしたちは未来の義姉が恥をかかぬように躾をしてあげていただけのこと。それを虐めだなんて」
「躾って言葉が出てくる時点で碌でもないな」
助言をしていた、くらいの発言であればまだ考える余地もあるが、こういう場面で出てくる“躾”という言葉は信じられるものでもない。そもそもがレスターよりよほど優秀な少女だ。そんなものが必要であるとは思えないし、それが必要だというのならば、それは妹の方だろう。
「まぁ、君たちに選べる道なんてもうそんなにないよ。悪行は全て知られているし、伯爵家は男爵位まで下がる。領地の運営が正常化したとみなされるまで監査が入り、まともな成績を収めていない、嫡子として必要な科目が取ることのできなかった兄上は廃嫡。あとはその……妹の脳みそがまともであることを祈ってもらうしかないな」
「酷いわ、ブライトお兄様……わたくしたちのことを信じてくださらないの?」
シクシクと嘘泣きをする妹を見ながらブライトは「うるさいなぁ」と思っていた。時折、ちらちらとブライトを見てその効果が出ているかを確認する、バレバレの嘘泣きに心など動かない。酷い、酷いと嘘泣きだけで乗り越えようという魂胆に心底嫌気がさす。
領民は飢え、貧困に喘いでいる。わずかな蓄えすら叶わない統治をしておいて、何が酷いというのだろうか。
「ブライト、不正資料の追加だ」
話しかけられて振り向くと、ローウェル・オパルスがいた。受け取ると、兄の女関係で揉み消した事件の内容が記載されている。
「うっわ。エトナ嬢が嫁いでくる前でよかった。こんなカスの相手とか絶対ヤだよねぇ」
「ええ。我が家の乗っ取りを示唆した件もあって、早々に潰してしまいたかったのですが、このような機会をいただけるとは」
黄色い瞳が細められる。その視線の先にいたレスターは蛇に睨まれた蛙のようだ。元々、生真面目で注意ばかりしてくるローウェルのことが苦手だった。自分のことを馬鹿にしているようで、優秀さをひけらかされているようで腹が立った。それでも爵位が、立場がベキリー家の方が上だと溜飲を下げていたのだ。
「うるさいうるさいうるさい!!怪力なばかりで物を壊し、毒すら効かない化け物に、子爵家の男風情が調子に乗って!!」
叫び声を上げると、彼のつけている指輪が眩く輝き出した。それは魔道具で身を守るための攻撃魔法が強化される物だった。ローウェルを下がらせると、ブライトは面倒そうにレスターに近づいていく。
危険物を持っていることに気が付かなかったらしい騎士に大丈夫だと手を振って、足を進めると、叫び声をあげて炎の球を何発も、何発も撃ち込んでくる。ブライトはそれをメリケンサックのついた拳で相殺していく。
「く、来るな!!化け物ぉ!!」
「化け物で結構!」
近距離で撃たれたそれを薙ぎ払い、顔面スレスレに拳を出す。殴られた、と思ったのだろう。「ひゅ」、と息が詰まったような音を発して膝から崩れ落ちる。そしてジョロジョロと水が流れる音がした。
「これ、片付けて。というか余罪ないかは牢で聞こうか」
「……容赦がない」
「そりゃあそう」
ローウェルに顔を向けた途端、メリケンサックが壊れるけれど気にした様子はなく、ブライトが続けた。
「僕の家族は、友達の彼らだけだもん」
その言葉を聞いた妹が「ひどいわ」とまた言い出したけれど、名も忘れた少女のことなんて気遣うことはなかった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!!
ちなみにブライトは家族の名前ほぼほぼ覚えてません!!




