12.謁見へ早変わり
手紙を見て全く笑っていない目で、さも面白いという声で「そりゃクソ人間も生成されるわな」と国主は宣う。宝石のような印象を受けた瞳は現在冬国の銀景色のように寒々しい。
「それで、ハロルドといったか」
「はい」
「お前が望むことは難しいということは自覚しているか?」
“特別”をひたすら押し付けられている今の状況でそれが簡単なことだとは思っていなかったので頷く。それでも、金と権力と女をちらつかせて自分の思うままに操ろうとするやり方は好かないし、それでうまくいかないと脅迫までしてくるあたりが癪に障る。
「それでも、祖父母の心に負担をかけるような生き方はしたくないので」
ロナルドを見ていればこそ、余計にだ。自分たちの娘のやらかしも含めて祖父母はだいぶ堪えていた。ハロルドを立派に育てるという覚悟だけで立ち上がった彼らに堕落した姿を見せるのは許されないだろう。今度こそ憤死しかねない。
あとはついでに生きているかどうかすら分からない両親が縋り付いてきたりしたら嫌だった。自分たちの子だ、なんて今更言われたくない。
「良い子だなぁ」
「そうですね」
目の前の国家運営者二人組がしみじみとつぶやいた。
ここ数十年の加護持ちはそれはもう酷かった。話が通じないし問題ばかり起こす。ハロルドが普通にしているだけで評価が上がる。そして意味のわからないハロルドは「え、何それ。怖」となる。
一昔前であれば「手っ取り早く貴族の養子にして仕舞えば良い」といえたのだが、現在では教会が幅をきかせていて、迂闊にズブズブな所に養子にしてしまうことがあったらそれこそ危ない。
人を出して守らせるつもりではあるが、それで目の前の少年の機嫌を損ね、女神からそっぽをむかれてしまっても国に影響が出る可能性が高い。
「まず、お前の能力はアホの手によって周囲にバラされる危険が大いにある。そうなると面倒な奴らに手出しされかねないので寮からこちらの用意する居宅に移ってもらいたい」
初っ端から自分の言う「普通に暮らしたい」から離れてしまってはいるけれど、おそらく何かあるのだろうと眉間に皺を寄せながら話の続きを聞く。
「加護を持つものの多くは拉致、監禁、売買を行う連中に狙われる。警護はさせてもらいたい」
「……家族や友人とかって危険ですか?」
ハロルドがこの面談に来ようと思った理由の一つに、教会の手紙にそれとなく身の回りの人間への害意を仄めかす文面があった。彼らには権力等を求めない人間もいるというのが理解できないらしい。ただただ自分たちが馬鹿にされていると怒っているように見えていた。
「……こちらで保護しよう」
その言葉に「あ、やっぱヤベーんだ」と思ったハロルドも否定できなかった目の前の二人も悪くない。
せめて国が話し合いが通じる相手でよかったな、などと思いつつハロルドは帰宅後速やかにいつもよりも余計に祈ってみることを決めた。
祈ったのに夢で女神から降りた神託は「そろそろそっちに例の聖女がいくから気をつけるように。ところで、君の育てた花は品質がいいね。定期的に供えてもらえると嬉しいな」なんて慈悲も何もないものだった。聖女の件は速やかに国にチクった。
でも因果的な問題で聖女召喚は絶対にされる。
そして王家は頭を痛める。