9.高ストレス
ペーターを入学式に送り出して、ハロルドは一息ついた。ちょっとだけ、「気分転換したい」という気持ちが出てくる。
(ストレスが、すごい)
自分の人生設計と違うことが一年で起こりすぎていた。
とはいえ、起こってしまったことを巻き戻すことなんてできない。ハロルドは背伸びをすると、家の中に戻る。
「ハル、久々に冒険者活動やっとく?」
「わう!」
弓の整備をしながら、そう問いかけるアーロン。「おれは行くぞ!」とばかりに気合いたっぷりに吠えるスノウをよしよしと撫でながら「それもいいね」とハロルドも準備を始める。
ハロルドが行くのであれば、とミハイルも出かける準備をしようとしてはたと気づく。
(冒険者活動ってやったことがないな。この間行った、領地探索の時みたいな格好でいいのか?)
その時と同じ格好をすれば、ハロルドに「これだと貴族だって一目で分かるな」と言われて、平民っぽい服を渡された。
「あんまり良い服着てると、目をつけられて攫われたりするきっかけになるから」
「貴族とか羽振りの良い商家の子息なんてカモだからな」
「ブライトは拳一つでなんとかしてたけど、普通はそんなの無理だからね」
そんな二人の言葉を聞きながら、「ベキリーさんって……」と呟くと同時に「名前で呼んでやってくれ」とアーロンからの訂正が入る。
「ブライトのやつ、さっさと貴族籍を抜いて欲しがってるから、そっちで呼ぶの嫌がられるぞ」
「……まぁ、兄君がアレでは」
ミハイルもまた、家族に問題があったためか理解を示した。
ブライト自身は最終的に暴力で解決する気満々だが、待ったをかけられている。脅迫は良くない。
「とりあえず、待ってるから着替えてきて」
ハロルドに手渡された服を持って、彼は部屋へと戻る。ミハイルの部屋の扉が閉まると、「わう!」「君、なんで僕について来たんだ!?」という声が聞こえた。スノウは反応が楽しいミハイルを気に入っていた。
「それにしても、レスターだっけ。ブライトの兄貴、しつこそうだけどどうする?」
「まぁ、俺たちにも害があるようならさっさと始末つけるよ。……正直、絡んできた時にペーターがやらかしたら怖いんだよな」
「ああ、アイツな。アイツ、怖くねぇ?目とか」
ボヤくアーロンに「俺もそう思う」と返す。
昔はもっと無邪気で可愛かった気がするのに、辛い目にあったからか感情の起伏が激しいように見受けられた。
たまにホラー映画のように目が虚かつ首がくるっと動く様子とか、あとは笑い方が怖い。
「今年こそは平和に過ごしたい……」
複数の神の加護を得ているのに、その心からの願いが叶えられる気がしないハロルドだった。
悲報
ペーター、怖がられる




