8.新たな同居人
新しくペーターを迎え入れたハロルドは、向かい合って契約書を差し出していた。
「一応は俺がペーターの後ろ盾ってことになるから、目を通して欲しいんだ」
ペーターを引き取るにあたって、最終的に王太子アンリの元に報告が行き、彼の指示でエドワード・ラピスラズリがこれを作成した。神様案件な少年の庇護下に入るため、警戒はある程度必要だとかで、監視下に入ることも記されている。
なお、ペーターのスキルのせいでつけられる人間もそれなりに腕利きを揃える必要があった。ノアの兄も勇者担当から異動してきた。
「あのさ、ハロルド。悪いんだけど、俺、字が……」
「ああ……わかった。じゃあ、読み上げるからわからない言い回しとかがあったら言ってね。それと、学園が終わったらしばらくは俺と勉強な?」
たった四年。されど四年。
虐げられ、痛めつけられてきたペーターに文字と触れ合う機会なんて有りはしなかった。陰惨な環境は彼から学びの機会も奪っていた。
分からないことを責めて折檻を行うわけでもなく、むしろ一緒に勉強をしてくれると言うハロルドは辛い環境にいたペーターにはとても素晴らしい存在に思えた。キラキラと輝く目を見ながら、「そんなに勉強したかったのか?」とハロルドは思っている。微笑ましく幼馴染を見るハロルドだったが、アーロンは「なんかすれ違ってる気がする」と呟いた。
「それで、ロナルド・アンモライトだけど」
「時が来たら殺せばいい?」
「いや、魔王退治とか自業自得以外で死ぬと神罰案件の可能性が大だから関わらないように」
その言葉に、ペーターの瞳からハイライトが消えた。「へぇ、あの屑。屑のくせに神様に守られてるんだ?」と首を傾げる。どこかホラーっぽい。
「わかった。今は我慢する」
とても我慢するとは思えない、ニタァという笑みにその場にいた全員が震えた。
実際、自業自得で死んでもらうにはどうすればいいかという計算が彼の脳内では始まっていた。熟慮の結果、力が足りないことをきちんと理解して、やはり時を待つ必要があると判断した。
ハロルドは「もしかして、俺ちょっと早まったか?」なんて思いながらも、放って置けなかったことも事実なので受け入れるしかなかった。
契約書の説明が終わると、ペーターにサインをしてもらう。すっかりハロルドファーストな彼は迷いがなかった。
続いて、学園初日の流れを説明してから、改めてハロルドは妖精たちを彼に紹介した。
「それじゃあ、ペーター。ようこそ我が家へ」
「歓迎するぜ」
「よろしく」
差し出されたハロルドの手を、ペーターは嬉しそうに取る。
捨てざるを得なかった家。
死んでしまった家族。
奪われた自由。
新しく住む場所と、「俺のところにおいで」と手を差し伸べてくれた幼馴染。そして彼が取り戻してくれた自由。
こぼれ落ちてしまったものは戻らないけれど、普通に生きることすら難しい状態であったペーターを、こうやって真っ当に生きられる道へと連れ戻してくれた。
(それが、そんな存在が神でなくてなんだっていうんだ)
崩壊のきっかけになった兄を守るものが神だというのならば、そんな存在を、彼は認めるわけにはいかない。
崇めるのならば、祈るのならば、願うのならば、守るのならば。
目の前のたった一人がいい。
「うん。よろしく!俺、ハロルドの役に立てるように頑張るよ」
満開の笑顔でそう言ったペーターに、ハロルドは「君が自分らしく、健やかに、平和に生きてくれればそれでいいんだけど」と言ったし、ペーターも元気よく返事をした。
(けど、なんか伝わって無さそうなの、何でかなぁ!?)
ハロルド「今まで辛かった分平和に生きてほしい」
ペーター「ハロルドに逆らうやつと迷惑かけるやつを須く始末すれば役に立てるのでは?」
——あかん。




