11.確かに面談だけど
これは自分では対応しきれないと踏んだハロルドは面談の場に教会からのお手紙を持ち込んだ。いや、仕えてる神様違うじゃんとしか返していないのに自分のところの神様の自慢話とだんだんとエスカレートする「もしこっち来なかったらどうなるか分かってんだろうな」みたいな内容のそれに嫌気がさしていった。アーロンですら「いやぁ、これでこっち行くやつ居ねぇだろー。居ねぇよな?」と言っていた。
なお、字が読めなかった者などが「教会だったら間違い無いでしょ」と流れていくのがこれまでの流れでもあった。あとは面談後に金品や権力に釣られてひょこひょことそちらに行く。
王城への呼び出しであるのは仕事の都合上仕方がないんだろうな、と案内してくれている兵士にお礼を言いながら思う。制服姿で城にいるのは場違い感が凄まじいけれど、指定された服装であるし、そもそもこれ以上の服など持っていない。
(地に足つかないってこういう感覚かもな)
緊張で落ち着かない。
案内された部屋で座って待つようにと指示を受けるけれど、そのソファーも優美なフレームデザインにいかにも高級そうな布張りのもので、ハロルドは座るのを躊躇する。真っ先に思うのが「これ汚したらクリーニング代、いくらだろう」なあたりが彼の小心っぷりを表しているかもしれない。
それでも、座っておいた方がいいのだろうなと思ったあたりで扉が叩かれた。
「はい」
返事をすると、扉が開いて白銀の髪の男性が現れた。釣り上がった目元と眉間の皺がどこか気難しさを感じさせる。その瞳の紫は学園で出会った神官ウィリアム・アメシストを思い出させた。
「お初にお目にかかります、女神の寵を受けし方よ。私はカーティス・アメシストと申します」
自分に向けて丁寧に頭を下げる男性の名は宰相として手紙にサインをしてあった名前と同じだった。その筆跡と同じく真面目そうだ。そして、明らかに高位の貴族である男性に頭を下げられてハロルドは少し混乱をしていた。
(何で宰相閣下が俺に頭下げるんだ?怖)
混乱と恐怖を飲み込んで、「こちらこそはじめまして、ハロルドです」とガッチガチの声で返した。
「マナーとか挨拶の返し方とかは習ってなくて、無作法で申し訳ございません」
眉を下げる少年にカーティスは「おや?」と思った。目の前の少年から感じられるのは困惑と恐れである。今もなお暴れ続ける勇者だなんて大層なジョブスキルを持った力だけを持つ少年とはまた違った印象だ。
これならば、とカーティスは頷いた。教会との面談は行っていないことは知らされていた。それどころか嫌そうな顔で分厚い手紙を受け取っていたことも報告を受けている。彼自身に何か権力図を引っ掻き回すようなつもりはないらしい。
後ろにいる侍従に合図をすると、軽く頭を下げて部屋を出た。
「かまいませんよ。無理にお呼びたてしたのはこちらの方です。それでは座ってお話をさせていただきましょうか」
その声に少し安心した顔をして、ハロルドは「はい」と頷いた。
カーティスは手紙の感じからして話を聞いてくれそうだったので、「なるべく悪目立ちしたくない」「田舎で平穏に暮らす生活を続けたい」ということ、それから教会がヤバそうなので何とかならないか、ということを話した。
「俺……私、みたいな小心者が地位とか金とかを抱えきれないくらい持つと碌なことにならないので、教会は本当にどうにかなりませんか」
急にいろんなものを持ちすぎると狂う、というのがハロルドの考えたことだった。そもそも子どもにそんなものを持たせても感覚が狂って普通の子どもではいられなくなる。ただでさえ中身が前世三十路過ぎのおっさんなのだ。これ以上生き辛くさせないでほしかった。
そんな少年の若干疲れを感じさせる表情に教会のやらかしを考えてカーティスはドン引きした。
そして手紙を受け取ると赤くなったり青くなったり表情を変える。最終的にはカーティスもまた目の前のハロルドと同じように無の表情になる。それをカーティスの後ろからひょいと摘む男がいた。
「これ、脅迫じゃねーか。マジかよ教会腐ってんな」
「……陛下、お早いお越しで」
「陛下……?」
輝くような金色の髪に、キラキラと輝く宝石のような銀色の瞳を持つ男はいたずらっ子のように笑う。
「おう」
面談から謁見になった。
静かに胃の辺りを摩るハロルドに侍従は申し訳なさそうな目を向けた。
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