5.ブライトの兄1
この日はあくまでもクラス発表と新学期における課題の手渡しのみだ。入学式を明日に控え、その準備があるために生徒は早くに帰される。
それ故に、ヴィクトリアも「帰宅の時間ですわー!また明後日お会いいたしましょう、愛しい生徒の皆様ー!!」なんて言ってさっさと解散させた。「でも、この子は理解らせますわー!」と行き遅れ発言の生徒を引きずっていった。
解散後の彼らは五人で教室を出ると、「久しぶりに時間が空いているから、何か食べていくか?」とルイが言った。その時だった。
「おい、ゴミ!!」
大声を上げて立ち塞がる青年がいた。王族も一緒なのにそういった発言をする人間に目を向けると、今朝会ったばかりの男子生徒だった。
「ね〜え〜……!?ほんっっとに、ウチの教育方針どうなってんのぉ!?兄上、僕と一緒にいる方がどなたかわっかんないの!?愚かなの!?」
「うるさいうるさいうるさい!!貴様、今朝俺に恥をかかせておきながら、どんな小細工でAクラスに潜り込んだ!!」
「え。普通に勉強を必死に頑張ったに決まってるじゃない。バカなの?」
思わず真顔になってそう返したブライトは、続いて「頭大丈夫?」と言い放った。ガチトーンである。
「レスター・ベキリー」
それに腹を立てて拳を振り上げたレスターの名前を、ルートヴィヒが呼ぶ。冷ややかな目線に一瞬、怖気付いたような顔をしたが、すぐに媚びるように「なんでしょう、殿下」と返した。
「退がれ」
ルートヴィヒは単純に「せっかくハロルドたちと遊べるのになんだお前。邪魔」くらいの気持ちであった。彼もまた交友関係が狭い分、友人を大切にしていた。友人をゴミと呼ばれたことにも苛立っている。
「いえ、しかしこれは我が家の問題で」
「ならば早くブライトが送りつけている絶縁届と貴族籍剥奪の書類にサインをして、私のところまで持ってくるといい」
その光景を見ながら、ルートヴィヒの後ろで「ルイがあそこまで怒るのは珍しいね」「普段怒らないヤツが怒るとおっかねぇな」とハロルドとアーロンがコソコソと話していた。
ハロルドたちの前だからそう見えるだけで、ルートヴィヒはそんなに穏やかな性格はしていない。ある意味では友人特権だ。
ルートヴィヒの合図で彼らの間に護衛の人間が入る。普段は主人の意向もあって学内では姿を見せないが、今回は「追い払って欲しい」とあからさまにわかる。
「もう!あれならうっかりカウンター入れても、お咎めなしですみそうだったのに〜」
「代わりにお前が伯爵家を継ぐ羽目になるぞ」
「そのまま王家に爵位返すよ」
ことはそううまくいく話でもないのだろう。ルートヴィヒがジト目でブライトを見ていた。とはいえ、話したくないことなのか、溜息一つで「レストランを予約しているんだ」と話題を変えた。
「それにしても、ブライト。お前、家でゴミとか呼ばれてたのか?ヤベェな、そりゃ嫌になるわ」
「ん?基本あの人たちは僕のことを『あれ』『それ』『これ』とかって呼ぶね。まぁ、あるとしても『あの子』『化け物』あたりかな。ゴミはあんまないよ」
「あのゴミってヤツ、お前を呼んでたんじゃなくて自己紹介だったんじゃね」
「あは、言えてるー!」
アーロンとブライトのそんな会話を聞きながら、挙動不審だったミハイルはハロルドとルートヴィヒに両脇を固められていた。
ブライト「僕が何もしなくても伯爵家潰れそうな気がするけど、それはそれとしてあの家もう少し教育方針考えるべきだよ。頭の中に脳みそ入ってんのかな、あの人たち」
そして何かビビッときたことで肩ポンされる哀れなミハイル。




