3.Aクラス
キャラの濃い女の子たち
バッジをもらったハロルドたちは、ミハイルも含めてAクラス所属だった。そのため、仲良く同じ教室に向かった。
教室の扉を開けると、ブライトは「わぁ、Aクラスって机とか椅子も違うんだねぇ」と呟いた。教室自体も明るい。Fクラスの教室は暗めだったので、その差に苦笑する。Cクラスだったルートヴィヒも「広いな」と言っているので、やはりクラス間で差があるようだ。唯一、初めからAクラスにいたミハイルだけが「そうなんですか?」と驚きを見せている。
ルートヴィヒたちが一番後ろの席を陣取ると、一人の女生徒がじっとハロルドを見つめていた。何度か目を擦って「信じられない!」とでも言い出しそうな顔をしていた。ハロルドはその少女との面識がなかったので怪訝に思っていると、彼女はゆっくりとハロルドの目の前までやってきた。すっと間にミハイルが入ると、「何か御用でしょうか?ラピスラズリ侯爵令嬢」と尋ねる。ワナワナと震えるラピスラズリ侯爵令嬢は、そのまま手のひらで顔を覆った。
「あ、あ、……っ」
「あ?」
ハロルドは不思議そうにその様子を見ていると、「あんまりですわーーー!!」と叫んだ。
「せっかくの!せっかくの美貌が、だいっなしですわぁ!?酷いですわ、酷いですわぁ!!わたくし、アンバー男爵の奇跡の美少年っぷりをしっかりとこの目に焼き付けるためだけに、あの厳しいお兄様にお勉強をみてもらったのに!!こんなのって!こんなのってありませんわぁ!!」
ハロルドはその叫びを聞きながら、「すごい。セリフ全部にびっくりマークついてそう」と呑気にそう思っていた。そして、そのあと「ん?」と首を傾げる。ラピスラズリ侯爵家という名前に聞き覚えがバッチリあった。
「ああ、エドワード様の妹さんでしたか。お兄様にはいつもお世話になっております」
ぺこりと礼を取るハロルドを、「いや、そうじゃねぇだろ」という目で見ているアーロンやミハイルは間違っていない。
当のラピスラズリ侯爵令嬢は嗚咽のあまり吐きそうになっている。「レイラ様、レイラ様しっかり!」「ダメなやつですわ!殿方の前でそれはダメなやつですわ!!」と一緒にいる女生徒たちが彼女を引っ張って行こうとするものの、動かなかった。
「ハロルド、一瞬だけ素顔を見せてやれば大人しくなるんじゃないか?」
「え……面倒にならない?」
「我々で周囲を囲めばいいだろう。ほら」
事態が飲み込めていないが、顔が見れればいいのだろうと結論づけた彼らは、しゃがみ込んだハロルドの周りで壁になる。
仕方なく、レイラ・ラピスラズリの肩を軽く叩いてメガネを取る。
「これで良いんですか?」
「こひゅっ……」
少し呆れた、ご機嫌斜めな顔だったけれど、レイラの息の根を止めるには十分だったらしい。ポンと顔が赤くなって、赤いものが鼻から飛び散った。そのまま後ろに倒れてしまう。それを咄嗟に受け止めると、ローズが「世話が焼けるわね!」とハロルドの顔にメガネを戻した。
「ダメだ……気絶してる」
ハロルドは思わずそう呟いた。
お友達二人は「見ないであげてくださいまし!」「あああ……レイラ様、念願を成就したからといって気絶するなんて……」と彼女を守るようにハロルドから奪い去っていった。
「……夫人そっくりだな」
「え」
ミハイルの言葉に周囲の視線が集まる。彼曰く、ラピスラズリ侯爵夫人が贔屓の舞台役者などが結婚や引退をする時に泡を吹いて倒れたり、ファンサでぶっ倒れたりするのは比較的有名な話らしい。
ついでに、彼女がラピスラズリ侯爵の顔が好きすぎて、結婚当時ダンスする前に鼻血を出して倒れたりしていたのも、親世代ではかなり有名だったようだ。
「みなさまー!?お席にお座りになってー?」
パンパンと手を叩く音が聞こえる。
教卓の方へ目を向けると、金色の縦ロールの髪を上の方で束ねた、吊り目がちの女性がいた。
「わたくしがAクラス担任の、ヴィクトリアですわー!!ヴィーちゃんと呼ぶがいいですわー!!」
高らかに笑う彼女の声を聞きながら、ハロルドとアーロンは目を合わせて頷いた。
二人は「このクラス、キャラが濃すぎる」と思っていた。
おまけ!
レイラ・ラピスラズリ
初登場こんなだけど普段はちゃんと淑女やれてるハロルド(の主に顔面)のオタク。特にお勉強が苦手なわけではないけど、ハロルドの学年は割と上位クラス激戦区だったので念のために忙しいお兄ちゃんに時間を取ってもらった。ママ似。




