2.堂々と不正
学園に到着すると、校門で学生証を出しておくように言われる。どういうことだろうと首を傾げながら取り出した二人に、ミハイルは「クラスバッジの引き換えに使うんですよ」と言う。
「毎年、成績優秀者の名前を騙って上のクラスに入り込もうとするバカがいるんです。学生証には入学時に魔法で個人の認証ができるようにされているので、こういった個人の確認が必要なおりに利用されます」
「なるほど」
すでに騒ぎになっていて、うんざりしながらそれを眺めていると、そこに容赦なく向かっていく彼らの友人がいた。
職員を怒鳴りつける青年に「ねぇ」と声をかけた彼は、軽く近くの壁を叩く。拳の形にくり抜かれたそれを見て、青年はようやく大人しくなった。
「それで、何やってるんです?兄上」
腕を組んで心底呆れているというような声でそう問いながら、学園職員に「修理費は王城のブライト・ベキリーに回しておいて」と伝える。
「は!すっかり自分の家は王城になったつもりかよ」
「いや、修理費払うから職場に連絡回しただけだよ。今、僕の家は文官寮だし。というかさ、成績なんて学内で把握されてるのに、いちゃもんつけて婚約者の学生証持って上のクラスに行こうとか本当にダサいよ。大人しく引っ込んでくれないかなぁ」
ブライトがいつもと比べて非常に辛辣である。
ただ彼が兄と呼んだので「そりゃそう言うわな」とアーロンは呟いた。一人、疎外されて暮らしてきたのだ。今もブライトの邪魔をするだけでろくなことをしていない家族なんて、必要ないと考えていても仕方がない話だ。
「ベキリー家はどうするつもりだろうな?私の目の前で不正を行うなんて」
現在ブライトは第三王子ルートヴィヒの側近として取り立てられている。ブライトがいるのならば、ルートヴィヒがいると悟るのが普通だ。
しかし、ブライトの兄、レスター・ベキリーはルートヴィヒを見て鼻で笑った。それを見たブライトは「あ、コイツ一昔前の情報だけでルイをバカにしてるな」と思った。仮にも伯爵家の嫡男だというのに、最新の情報すらまともに集められないのか、とより冷ややかな目で兄を見た。
「もういいや。足止めはできたし」
興味をなくしたように、ルートヴィヒの方に帰ろうとするブライトに、レスターは腹が立って手を伸ばそうとする。けれど、そんな彼の肩を、叩く者がいた。
「レスター・ベキリー。話は私が聞こうか」
「げ」
そこにいたのは、レスターの学年のAクラス担当教員だった。逃げようとした彼の首根っこを掴んで、引き摺っている。
ブライトは学生証を出してさくっとバッジをもらっていた。
「ごっめ〜ん!僕の知り合いがバカでグズなばっかりに待たせちゃった」
てへぺろ、と舌を出し、頭をコツンと叩いて見せる。その様子を見ながらハロルドは「この動作、こっちにもあるんだ……」と思った。転移者、転生者が現れていることもあるので不思議ではないが違和感がすごい。
「いやー、次代があれとかさぁ、潰すべきだと思うよ僕」
「おい、お前の血縁」
「だって、年下の女の子の学生証を奪って上位クラスに行こうとするとか、ちょっと……いや、かなり引かない?引く。きっしょいなって思う」
「それは気持ち悪いな」
アーロンは瞬時に評価を改めた。
ブライトの家庭事情は複雑だと聞いていたけれど、普通に中身もクズのようだった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ブライトはちゃんと家族が嫌い。
 




