37.そんなつもりはなかった
5章最終話
とある貴族邸に騎士たちが捜査に入っている。故意に美術品の贋作作成、売却をした容疑がかけられているためだ。
どうしよう、と震える弟を少女が抱きしめていた。
(まさか、この子が練習に描いた絵や彫刻を売られていたなんて……)
少女たちの家は下級貴族としては平均的な年収と手堅い領地経営を行っていた。両親は誠実そのものだし、評判も悪くはない。だから、こんなことになるはずはないのだ。
「姉さま、どうしよう。ぼ、ボクが美術館で観たものを作ってみたいだなんて思ったから……」
「練習で作っただけよ、売るつもりはなかったのだからそれで罪になるわけがないわ」
少女が唇を噛む。
騎士たちもここの子息が作った作品である、ということが分かったから捜査をしているが、「いやまぁ、子爵たちが故意に行ったとは思っておりません。でも盗まれた可能性はあるでしょう?」という感じなので姉弟を「ごめんねぇ、おじさんたちもお仕事なんだ」みたいな目で見ることしかできない。
「あーら、騎士たちがこんなに。おじ様たちったら何か犯罪でも犯したのかしらぁ?」
そこにもう一人、少女が現れる。ニヤニヤと楽しそうに姉弟を見る少女の顔は醜悪だ。
「はぁ……、貴様等は私に不快感しか与えないな?」
青年が現れると、それもいやらしくニヤニヤと嗤っている。姉弟を見下すその男はレスター・ベキリー。
ブライトの実兄であった。
「何だろう、すっごい嫌な予感がする〜」
「ミハイルではあるまいし、お前の嫌な予感は当てにならない。一昨日も嫌な予感がするから休む、とか謎の理由で休もうとしていただろう」
「そういうのじゃないんだよ。上手く言えないけど!!」
王城、第三王子執務室にて、ブライトはそう叫ぶ。自分の兄がやらかしていることなんて実家に帰らない彼が知るはずもない。
ベキリー伯爵家を拳で黙らせて出てきたこともあり、「さっさと貴族籍外してよね!」とお手紙を書くくらいしか関わりがない。ブライトにとっての血の繋がった人間たちは、悉くさっさと縁を切りたい相手でしかなかった。
「もう面倒ごと起こって欲しくない〜!迷惑かけられても許せるのはハロルドくんとアーロンくんとルイくらいだよ〜!?」
「やめろ。それだと私たちが面倒を起こすみたいじゃないか」
「僕たちみんな巻き込まれ体質だってだけだよ」
仲良し四人組は、特に何もアクションを起こさなくても面倒に追いかけられていた。特にハロルドは神やら妖精やら精霊にも追いかけられている。今でも、王太子アンリに使った薬草の対価に、と砂の妖精族と関わっている。現在では、半分くらいは「向こうの土地でしかできない薬草を軒並み増やして、俺の農業に役立てよう」みたいな方向にシフトしているけれど、そんな事情はみんな知らないのである。
「休み終わる前にちょっとくらい遊びたかったねー?」
「そうだな。まぁ、学園では会えるし我慢しよう。おそらく皆、同じクラスだろう」
「じゃなきゃ困るよー!?僕、あんなに勉強したんだから!!」
「クラスを維持するためにこれからも継続学習が必要だぞ」
ルートヴィヒが「王族の側近だしな」と追加で言うと、ブライトは「はいはい」とまとめた資料をルートヴィヒに渡す。言っていることはともかく、仕事は真面目にこなす。ブライトも割とそういうタイプだった。
がんばれブライト!




