2.幼馴染、面倒臭い
そうやって転生させられた晴はハロルドという名前の平民となった。
どこをどう見渡しても畑と木しか見えない。裏手にある山には魔物が闊歩している。そんなど田舎ではあったが、ハロルドは通常は平々凡々に暮らしている。
(まぁ、何故か顔面偏差値は爆上げされてるけど)
だからといって特に異性に興味があるわけでもなく、のんびりと少し小さめの鍬を振るう。前世三十路男のハロルドからすれば同い年の女の子はロリだし倫理的に気になるというリアルな理由もある。この調子であれば、どこか別の場所で前世での成人年齢を超えてからしか恋愛ができないような気はしているが特に問題はないかと考え直す。
ハロルドはただの農民で、貴族ではないのだ。特に政略的なものなどそこには存在しない。それに加えて、家庭環境からすでに周囲には距離を置かれている状況だ。
汗を拭うと、母親に呼ばれて振り返る。彼女は、父親がいなくなってから少し衰弱したように感じる。それが儚げだと視線を集めていた。
母親用に笑顔を作って、手を振った。
ハロルドの母は若い時、大層美しかったと聞く。父親もそこそこに顔が良かった。顔は良かったけれど、特に何をするでもなく女と楽しげに話して仕事などしなかった。ハロルドは小さい時から「あ、この家碌でもないな」なんて思っていた。なぜなら、母親も働いている様子がなかったからだ。
ハロルドは母方の祖父母に育てられたようなものだ。なぜあの勤勉で穏やかな祖父母から母みたいな何もしないのが生まれたのかわからない。
「ハロルド、せっかく綺麗な顔をしているのにそんなにあくせく働かなくっても」
母親の言葉に一瞬スンとしたハロルドだったが、すぐに持ち直して「僕は好きだから」と困ったように笑ってみせた。
母親はその美しさから異性にありとあらゆるものを貢がれていた。少し悲しげにするだけで手玉に取るのだから恐ろしい。そのせいでこんな価値観になっているのだから、原因は家族でなくこの村の男衆ではないかと思ってしまう。
そして、息子を堕落させようとする言動に女衆もそれなりにピリピリしていた。ハロルドの両親のような働きもしないで貢がれたもので生活するような穀潰しを増やされてはたまらない。
「おーい、ミィナさーん!」
顔には出さないが「うげ」と思った。少し遠くには2歳年上の幼馴染がいた。たかだか12歳の少年に女の顔をする母親も不快だった。自分を勇者だなんて嘯く幼馴染は確かに才能があったらしく、王立の学園に通うことになっている。
ロナルドという少年は確かに目立つ少年であった。
(何せ、木の棒とかでゴブリンの群れを殲滅させるんだものな)
冒険者ギルドでも期待されているらしい。また、それなりに容姿も整っていてその年齢にも関わらず媚を売る異性もいた。ハロルドの母、ミィナもその一人である。
ハロルドはといえば、剣を振り回す相手をさせられたり、荷物持ちをさせられたりしてむしろ彼のことが好きではなかった。せっかく王都にいたのだから戻ってこなければ良かったのに、と心の底から思う。
ハロルドは生活をするために畑を耕し、罠を仕掛けてウサギや魚などを獲る。このロナルドという少年が振り回してくればその時間は減り、自分の生活は再び祖父母におんぶに抱っこという状況になるのが目に見えていた。
「おい。俺の荷物、家に置いてきて」
「嫌だよ。まだやる事がいっぱいあるし、そんな暇ない」
呆れたようにハロルドが言うと、母親に頬を打たれる。ロナルドの言った通りにしろと言われてミィナ自身は彼と腕を組んでいる。その後ろ姿に白けた目を向けてから溜息を吐く。ロナルドはハロルドを振り返って口角を上げていた。優越感が感じられる。
ハロルドの前世の両親は普通の人であったので、ちょっとどころかかなりドン引きしているが、二人は気付かないまま姿を消した。
(めんどくさ)
心の底から呆れながら、仕方なくその荷物を持つ。哀れまれながらも助けが入らないことも知っている。何せ、ハロルドと関わればあの母が出てくるのだ。簡単に関わりたくはないだろう。それが分かっていても助け起こしてすらくれない上に、ロナルドの暴挙が許されていることに心底うんざりしていた。
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