31.湖浄化大作戦6
湖に辿り着くと、魔物が逃げ惑っていた。
赤い炎を纏った剣が次々にそれらを屠っていく。異様に光り輝いている大地には近づけないのか段々とハロルドたち方面へと近づいてきていた。
「凍れ」
逃げてきた魔物たちは目の前でエリザベータに氷漬けにされる。そしてそれをシャルロットが断ち切る。
両断するシャルロットの腕前にハロルドは思わず小さく拍手していた。
「神子様、ご無事そうで何よりです」
その言葉に、アンリによる「君の騎士が立派に職務を果たした時はこう言えば良いよ」という言葉を思い出して、一つ頷く。
「さすがは我が騎士、素晴らしい働きです」
にこっと猫被り神子様スマイルを見せると、「もったいなきお言葉」と頭を下げるシャルロット。その耳は赤く色づいていた。感動しているのか声が震えている。
目の前に埋め尽くされた毒々しくも美しい花を見ながら「どういう仕組みになってるのかな」と鑑定をする。この甘蓮という花は見た目だけはハロルドの知る蓮に似ているようだった。花香という国で多く棲息しており、凄まじい勢いで成長する。年中その花が咲いたままであり、これ自体が成長しきるとその匂いであらゆる生き物を誘い、酔わせ、狂わせるだけでなく、触手のようなもので捕食を始める魔物である。その蜜や花、実を口にしたならば麻薬のような効能も出る。ハロルドはドン引きしながらその結果を見て、処分方法を考える。
「リリィ、水中の地面とかって掘り返せるか?」
「根こそぎってことぉ?水がなければできなくもないけどぉ、このままは無理ぃ〜」
「ネモフィラ、水を持ち上げることってできるか?」
「……うーん。ハルと一緒にやって、ちょっとの間だけ」
そんな会話を聞いているマリエは「できるの?マ?」と呟いている。湖はそれなりに大きい。いくら人外のファンタジーな生物とはいえ「そんな無茶苦茶な」と思うのは仕方がない。転生組と違って彼女はこの世界に来てからそこまで長くない。しかも、埒外な力を持つ勇者ロナルドの戦いを見たことがなく、ハロルドのようにやたらと人外に絡まれたりもしていない。
「エリザ、俺を手伝ってくれる?」
「わたくしはあなたの妻になるのですもの。夫を助けるのは当然のことでしてよ」
エリザベータの言葉に「気が早いよ」と苦笑しながらもお礼を言う。
「それじゃあ、魔力が有り余ってる人全員で湖の水を持ち上げるよ。リリィとエリザはなるべく早く根っこの除去をお願い。ローズ」
「任せて!」
熱を加えると香りが飛ぶのはこの花由来だ。だから、ローズは思い切り湖の表面に出ている花を焼いていく。どうしても水の上に咲く花はやりにくいものだけれど、ローズからすれば動かない的など大したものではなかったらしい。熱によって甘い臭いがおおよそ消し飛んだ後、ハロルドとネモフィラがアイコンタクトをして水をゆっくりと持ち上げた。
「やぁ〜ん!きっしょ〜い!!」
伸びた茎は赤黒く、そしてブヨブヨとしている。根と紐付いているそれは慌てたように動いている。
「せ、聖なる光よ、フォルツァートの名の下に邪悪なるものを!祓いたまえ!!」
よほど我慢がならなかったのかマリエも参戦していた。神の名の下に詠唱を行った魔法は強い光線となって茎に当たると、茎が灼けたように見える。
「エリザベータ、手を抜くんじゃないわよ?」
「まぁ、わたくしがハルのためになることで手を抜くとでも?」
いつもの甘い小悪魔ボイスは鳴りを顰め、真剣味を帯びたリリィがエリザベータに先駆けて強い魔力を放出する。ゆっくりと根が浮き出てくると、それが動き出した。
「キモいキモいキモい、浄化浄化浄化ーーー!!ひぃ……動くな触手ぅ!!」
マリエが若干恐慌状態に陥っているが、その浄化のおかげで焼き消えたり、リリィたちへの負担が軽くなったりしている。マリエ本人はシャルロットの後ろに隠れているが、さすが聖女。その能力は折り紙つきだった。
「大地よ、望まぬ異物を吐き出せ」
エリザベータも除去を始める。リリィが真剣であったから油断はなかったが、やはり見た目が植物の癖に暴れる根には苦労する。
この地にハロルドとマリエが来た事は、持ち上げられた水の中で瞳を輝かせている精霊にとっては幸運であった。妖精たちと彼女たちの指示で魔力回復薬などをハロルドたちに供給する騎士たちのおかげで、その日の夜遅く、湖は元の姿を取り戻した。
「やっと出れたのー!!」
「うるさい」
ちゃぽんと湖から顔を出した、人魚にも似た精霊をその呑気な声に腹を立てたネモフィラが残った力を目一杯使って蹴り飛ばしたのもちょっと仕方がない気がしたハロルドだった。
——ポンの予感……!!




