30.湖浄化大作戦5
ジュエルシリーズは身体の大きさがそのまま脅威になる。それはその身体が魔石と呼ばれる石でできているからだと思われていた。
魔石には魔物の体内から取れるものと、採掘場から取れるものがあった。魔物の中からは毎回出るというわけでもなかったので、通説では、何らかの原因で魔石を飲み込んだ魔物が、それと結びつくことで上質な魔石を身体に宿すのだろうと言われていた。
ジュエルシリーズはそれに関わる突然変異種であると捉えられていた。
だが、目の前でムーンベアーは通常の種からジュエルシリーズに変貌した。
突然変異ではあるものの、考えられていた想定とは違う。まるで、進化しているとでもいうような様子に恐れを抱く。
一人以外は。
(これって同じように浄化したら弱くなるのかな)
突然であったため現実感が薄かったハロルドである。
みんなが恐れており、後ろに追いやられていたのでその異様さがあまり目に入らなかったのも原因の一つかもしれない。現代日本人の記憶を持って転生した彼はゲームなどでモンスターが進化するものも存在するからか、進化自体は不思議には思わなかった。そして、色々ありすぎたせいで死ぬつもりはなくとも若干投げやりだった。
彼はルクスに「目一杯お願いできる?」と小声で言うと、杖を持ち上げた。ハロルドの頭上でルクスが「この状況で良いんですかね……?」と思いながらも指を組む。祈るように目を閉じると、魔力が混じり合い始める。ついでとばかりにフォルテにも祈りを捧げると、輝きが増した。
「光の輝きを、今ここに。我らの祈りよ、魔を討ち払え」
教科書通りの言葉が紡がれる。思いっきりやろうとしているハロルドにアシェルは「え、一番に逃げなきゃ行けない人……」と呟いたが、彼を後ろに置いて最前線にいたので止められなかった。
一際美味しそうな獲物だったハロルドの攻撃だったからか、力なきものと判断したからか。光の奔流がムーンベアーだったものにぶつかった。進化したばかりのそれは異常に腹を空かせており、理性的ではなかった。
光が魔物にぶつかると、最初はそれを突き破ってハロルドを目指そうとしていたそれがだんだんと悲鳴にも似た呻き声へと変わっていく。光が自らにとって「毒」であると気づいた時にはもう逃げられはしなかった。
段々と気配が小さくなって、光が収まった時には小熊サイズだった。それでもルビーにも似た美しい輝きはそのままだ。
「えーい!」
リリィが土を操って、巨大なトラバサミのようなもので捕まえると、ネモフィラが水流でその首を刎ねた。
「ああ、やっぱりジュエルシリーズだろうが弱るんだな」
「まぁ、成りたてで力が足りなかったのもありそうですけど」
「そうだな。でも、これで狩りやすくなったな」
のんびりと話すハロルドたちに、周囲の騎士たちは「そんなことできるのはあなた方だけです!!」と思ったが、この事はいずれ魔王を倒しに行く予定の聖女たちには朗報だ。これが終わればすぐに上に報告しなければならないと頷きあう。
「やっぱりぃ、ウチらの方がちゃあんとハルのこと守れるし?」
「ボクたちが一番、ハルが好き」
リリィとネモフィラはそう言ってエリザベータを煽る。目の前にちらついた火に「きゃー」「最低!!」と騒いでハロルドの後ろに隠れた。
「仲間内で争うんじゃありません」
「だってぇ!!」
エリザベータはそれを見て少し溜飲を下げたけれど、次いで「エリザもすぐに魔法で反撃しない」と怒られてちょっとだけしょんぼりした。
妖精たち、別にエリザベータと仲良くない。でもハロルド関連のことは割と結託する。




