29.湖浄化大作戦4
ハロルドの魔法には妖精たちの影響が色濃く、それは植物の浄化も同時に行っていた。彼の側にいるのが「花の妖精族」と言われる妖精たちであるが故に出た影響だろう。
反対側で同じことをやっているマリエの方は聖域っぽいものができていたりしているのでこの辺りは彼らに加護を与えている存在の権能や考えで差ができている。なお、ハロルドの方に聖域ができていないのは、フォルテが「そこまで力を与えるとハルが嫌がりそうだし」とセーブしているせいだ。ハロルドが「自分や仲間を守るため」に力を本気で使えばリミッターが外れるかもしれないが、今回はまだそこまでの思い入れを持ててはいない。
「本当に弱まるんだな」
「一部の魔物以外は耐性を持っていないもん」
ローズの言葉に「耐性持ってるやつもいるのかよ」とハロルドは少し嫌な顔をしたが、自分は勇者というわけではないのだからと思い直す。この調子ならばそのうち引っ張り出されそうだとも思ってはいるが。
アシェルがかなり強く、ハロルドの望み通りになるべく森を傷つけないように戦ってくれている。逆に比較的派手な大きな魔法が得意なエリザベータは多少苦労している。
ハロルドは光属性の杖を出した都合で後ろで守護の魔法に強化の魔法、それから治癒魔法を振り撒いていた。無理をすれば低クオリティにはなるが、他の属性の武器を今から出せないこともない。だが基本的に一日一本出すのが今の限界だ。アルスは魔剣の作成を示唆していたが、ハロルドが頑張っても全属性での魔剣作成はできなかった。剣の使い手という意味でも、錬金術師という意味でも練度が足りていない。代わりに杖やら短剣やらの形でなら武器作成ができる物もあった。この大きな杖もそのうちの一つである。
「ハロルドくんの補助魔術たっよりになるぅ!」
アシェルがパチンと指を鳴らすと雷が落ちて緑色のウルフたちが倒れる。甘い美形のお兄さんは後ろにやってきていたムーンベアーも手に持っていたナイフから伸びた風の魔法でぶった斬っている。「魔法剣みたい」とハロルドの目は少しだけキラッとした。
(これでBランク、か)
AランクとBランクの壁はどれほど大きいのだろうか。そう疑問に思う程度にアシェルの動きには無駄がなく美しかった。統率の取れた動きでハロルドを護衛する騎士たちも素晴らしい連携だが、アシェルのそれは性質も格もちがう。多彩な魔法と体術は簡単に真似のできるものではない。
シャルロットはアシェルがハロルドの方に来るとわかった段階で「では私は聖女様の方へ」と言った。非常に判断が早かったが、アシェルの実力を知っていたからだったのだろう。
「ラリマー嬢の実力には負けるかもだけど、僕だって大したもんじゃない?」
パチンと片目を閉じてピースを作る姿にエリザベータは「大したものですが、その態度はいかがなものかと」と返し、ハロルドは「かっこいいです」と素直に返した。
ハロルドの返事に気分を良くしたのか「やっぱり可愛いねぇ」と頭を割と乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。
「うちの弟たちなんて生意気なクソガキでしかないから癒し〜!!爪の垢煎じて飲ませてぇ〜」
さらっと自分の弟たちに対する愚痴を吐いている。大家族の家系である彼は家の騒がしい兄弟たちを思い出すと目の前の少年が天使にも思えた。
彼自身子爵家の四男という立場で姉が一人、兄が三人、弟が二人、妹も二人いる九人兄弟なのでハロルドが思っている以上に騒がしい家で育ってきた。そして、男女問わず悪ガキっぽいのが多い。兄弟の中では彼も上品な部類だ。素直に誉めてなんてくれないのでハロルドの素直な発言で好感度が上がっている。
一行はそうやって進んでいると、ようやく湖に辿り着く。やはりむせ返るほどの甘い香りがする。
その中で一際大きなムーンベアーがいる。それは淡く輝いており、興奮したように近くにいた同族をその鋭い爪で切り裂いた。そしてその肉を喰らうと体が赤く輝き始めた。
「共喰い……?いや、アレは……下がれ!!」
アシェルの声に反応してハロルドの前に騎士たちが出る。
赤く輝く透き通った生き物が獲物を見つけて嬉しそうに吠えた。
「まさか、普通の魔物がジュエルシリーズに変わるなんて……こんなのアリかよ、クソが」
アシェルの若干焦りを含んだ声がソレの鳴き声に掻き消される。
アシェルはハロルドのこと弟みたいに思ってるとこある。




