28.湖浄化大作戦3
ジョシュアやアシェルの作戦で森の中へと各方面から突入することになっているハロルドは、ドヤ顔をして「うっざぁい」とリリィにどつかれているルクスを救出しつつ、合図を待っていた。
森の反対側から煙が上がるのを見て、隣にエリザベータが立つ。
「ハル、わたくしから離れてはダメよ」
エリザベータの言葉に苦笑しながら頷く。彼女が強いことは知っているが、守られるだけというのも自分を情けなく感じる。
(俺が強くなればいいだけなのかもしれないけど)
元々スローライフ、というのだろうか。彼は田舎でゆっくりそれなりの暮らしができればいい、くらいにしか考えていなかった。今も許されるならそうしたいと思っている。
自分という平民が国に影響を及ぼす人物になるなんてハロルドは本当に想像すらしていなかったのだ。家族の件も含めて今は全部投げ出したい心境だが、それも責任感に欠けるだろう、と前を向く。少なくとも戦う手段はアルスによって提示され、ハロルドは一部とはいえその力の使い方を理解した。砂の妖精たちとの出会いも今となってみれば強い力となっている。
「ハル、準備はいいですか?」
「うん、やろうか。ルクス」
ハロルドの足元が白く光り、ガーベラの花を模したような魔法陣が広がる。そこからゆっくりと背の高い杖が現れる。ハロルドの背よりもそれは頭ひとつ分ほど大きい。それを掴むと、光はゆっくりと収束していく。
錬金術と妖精魔法が合わさって強い力を秘めた杖が出来上がったのを見て、周囲は少し目を見開く。けれど、女神に愛された少年であればそういうこともあるだろうか、と思ったのか口を噤んだ。
大杖を持つハロルドの肩で、ルクスが光を集めている。ハロルドが魔法を使うのと同時にそれは杖に集まってゆっくりと、光の絨毯のように森へ向かって広がっていく。その光景は神聖な儀式として周囲の目に映った。
「行こうか」
そう言ったハロルドの言葉にエリザベータとアシェル以外のそこにいた全ての者が膝を折り、力強く返事をする。だから誰も気づかない。その崇拝の先にある神子の瞳がどれほど疲れたものになっているか。
女神の干渉で精神的なダメージは少しばかり和らいでいても、僅かな間に積み重なったものは確実に影を落としていた。
(まぁ、俺もいい加減に色々諦めなきゃいけないんだろうけど)
心配をかけないようにと歩を進めたハロルドの表情は綺麗に取り繕われている。
妖精たちが楽しそうに飛び回っているのを眺めながらおとなしく守られている。浄化によって少し弱った魔物たちはそう強くはない。
「ハル、疲れた?」
ネモフィラの囁く声に、「少しだけ」と返すと、彼女はいつも通り平坦な声で「いーこ、いーこ」とハロルドの頭を撫でた。目をぱちくりとさせていると、ネモフィラは不思議そうな顔をする。
「人間の子供は、こうすると喜ぶ」
その言葉にハロルドは思わず笑い声を漏らした。
(そうだな、俺は子供だった)
たまには子供らしく、周囲に甘えてみるのも良いかもしれない。そんなことを考えながら「ありがとう」と告げると、ネモフィラは嬉しそうだ。守られるのも今のうちだけだ、と少しだけ気を軽くする。子供だから守られるべき存在ということはハロルド自身にも当てはまる。大人になればまた環境も変わる。自力で領地を治め、国に貢献することが求められるだろう。
ハロルドが子供だから、などと言っていられない状況であるから王家も悩みながら、それでも力を借りたいと依頼はするけれど、それでもこれだけの護衛を出して、ある程度の自由を保障してくれようとしていた。
背負うべきものもあるけれど、考えすぎも良くはない。
これからのことをもう一度相談してみるべきかもしれないなんて思いながら、まずは仕事と割り切った。
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