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9.知らぬ所で動くもの




 ウィリアム・アメシストからの報告を受けてエーデルシュタイン王国国王であるリチャード・ダイア・エーデルシュタインは深い溜息を吐いた。2年前にとんでもない産廃勇者が爆誕して周囲の声も聞かず暴れ回っていることを知っているので、加護持ちとか若干地雷である。

 それでも、報告を聞いていると「現在、加護を受けるものとしては破格とも呼べるほどにまともな精神性であり、本人は穏やかな暮らしを希望している」「緑の手の持ち主である」などと言われて考え込む。



「え。お前の息子だから信用するけど真面目で控えめな神の寵児とか幻想だと思ってた」


「陛下、口調が乱れておいでですよ」


「いいよいいよ。俺とお前とカミさんとうちの長男だけだし」


「陛下、仕事ですよ。真面目に聞いてください」



 妻に嗜められてリチャードは姿勢を正した。

 主神は確かに魔王という瘴気が固まり形を成した、ただ世界を滅ぼすだけの魔物を倒すだけの力を人間に与えてくれた。中身の人間性度外視で。フォルツァートが力を与える人間が割といつも問題を起こすのは国家を治めるものとしては頭の痛い問題である。結局その行動で刺されたり突き落とされたり、閉じ込めたりなどしなくてはいけなくなる。さらにそのことで「お気に入りを虐めた」とそれで被害を受ける。最悪である。



「まだ12歳だからなんとか矯正できるかと思ったら初めっから人間性腐ってて、尚且つ教会が増長させて何ともならなかった勇者とかマッジで要らんかった。まともならなんとか引き込みたい。ついでに言うと健やかな成長を促してぇなぁ!!」


「10年前の聖女も最悪でしたね。あの小娘のせいでうちは跡取り息子を廃嫡して出家させる羽目になりました」


「20年ちょっと前の賢者もダメでしたわ。あの男に何度寒い言葉で口説かれたことか」



 稀に現れる主神以外の加護の持ち主も教会が甘やかしまくってダメにしてしまったり、ハニートラップに引っかかって他国へ行ったり、単純にスカウトで引き抜かれて行ったり、力に溺れてクソ野郎になったりとこの手のトラウマには事欠かない。

 女神フォルテは加護と名前がつく形で現れるのはいつぶりだったか。教会との奪い合いになるだろうとこめかみを揉んだ。



「国と宗教団体とでは後者の方が清廉で神様が喜びそうっつって大体向こう行くんだよな」


「そして堕落して酷い暴君になってからそっちでなんとかしてくれと押し付けられるのですわ」



 今代の勇者を増長させたのも教会だった。死んだ賢者や聖女があまりにも欲望全振りで何もしてくれなかったので魔王だってなんとか各国が人を派遣して押し留めているだけに過ぎない。30年間の瘴気を吸ってより大きくなった魔王を倒すために遣わされたはずの勇者がアレとか国を統べるものとして頭が痛い。



「とりあえず保護に際しての面談の申し込みをしておいてくれ」


「はい」



 半信半疑のまま宰相にそう命じると、「俺の生きてる間になんでじゃんじゃか加護持ちが出るんだ」と疲れたように言った。特に利用するだとか考えていないまともな国の中枢の意見は大抵これである。コントロールしきれない強大な力なぞあるだけ邪魔だ。威張りくさっているだけで何もしないのならばいっそいない方がマシである。



「もう一件お伝えしたいことが」



 宰相は淡々とした声音で王に告げると、リチャードは「本当なら処理しろ」と即座に告げる。



「禁じたはずの召喚まで勝手に行うとは、あいつらどこまで人間を舐め腐ってやがる」



 フォルツァート教の者たちは他の神や人を下に見て自分たちやフォルツァートの加護を得た者たちこそが特別だと独断専行が目立つ。そして、それを許す者もそれなりにいる。

 一国が禁じたことでさえ「神の意志なれば」と簡単に破る連中がまともなはずはない。勇者が国を統べるべきだと高らかに叫ぶ者もいるくらいだ。



「フォルツァートの聖女など要らん。召喚した所で我が国の聖女とは認めん」



 ただでさえ、この周辺国は彼の神の聖女にかき回されたのだ。

 神が己のお気に入りだけを大切にするというのであれば、そんな加護は必要あるものか。人の国は人が治めるべきだ。王は鋭い眼光で前を見据えた。

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