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【書籍化】巻き込まれ転生者は不運なだけでは終われない【4巻制作・コミカライズ化決定!】  作者: 雪菊
5章

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23.彼女の隠し事

めがみ は くうき を よまない !



 いつも通りの時間に目を覚ますと、ハロルドはすぐに砂の妖精族のところへ向かった。そして、いつも通りに約束した植物の世話をして、いつも通りに帰還する。

 身支度を整えている時にようやくペーターが目を覚ます。袖口のボタンをとめながら「おはよう」と言うと、少しまごつきながらも返事が返ってきた。



「どうかしたか?」


「いや、貴族になったのに全部自分でやってるのかなって」


「俺に変な気を起こす奴は少なくないからね」



 ハロルドの答えにペーターは苦笑した。村の中でも圧倒的に顔が良かったハロルドは、周囲の牽制により安全を確保している節があった。モテなかったのではなく、全員が狙っていたのである。警戒心がバッシバシのハロルドは誰にも懐くことがなく、助けを求めるのは母方の祖父母にだけだった。遠巻きにされていた、とハロルドは思っていたが実のところ近づこうにも下心が見えた瞬間全力で姿を隠すのだ。近づけなかった、が正しい。



(ハロルドはそれで正しかっただろうけど)



 今もなお、少年期特有の危うさと美しさを持つ幼馴染を見ているとそう思うしかない。

 ペーターも外に出れるだけの格好になった頃、扉が叩かれた。「どうぞ」とハロルドがメガネをかけてから言うと、扉が開く。現れたのは青い顔の修道女。少し震えているように見える。ハロルドは少し可哀想に思いながら「どうしましたか」と尋ねる。



「……アンバー男爵の母君が、亡くなっているのが発見されました」



 分かっていたことではあるが、ハロルドは彼女の表情のあまりの悲壮さに息を呑んだ。一呼吸置いて「長くないとは聞いていました。後で確認をしに行きます」と返すと、彼女は静かに頭を下げた。



「ローズ、あの子の見張りを頼める?」


「まっかせて!」



 責任を取るとか言って自殺でもしそうなほど思い詰めているように見えたためローズに頼むと、姿を現して「ご褒美、期待しちゃうね!」なんてウィンクしてみせた。ローズは妖精たちの中では一番世話焼きだ。悪いようにはしないだろう、と頷く。

 いきなり現れた妖精に驚いた顔をするペーターに、ハロルドは「可愛いだろう?」と言うと、リリィとネモフィラは「ふふん」とでも言いそうな顔をする。胸を張ってドヤ顔をする二人の姉貴分をルクスとルアは微笑ましく見つめている。どちらが年上かわからない。

 質問をしたいという様子の幼馴染に笑顔だけを向ける。彼を連れて、ハロルドが部屋を出るとシャルロットとミハイルが待機していた。



「お待ちしておりました」


「何でペーター君が一緒に?」



 ミハイルの疑問に答えると、ペーターを彼に任せてハロルドはシャルロットの腕を引いた。



「ごめん。俺に知られたくはなかったと思うんだけど」



 気まずそうにハロルドがそう切り出すと、シャルロットは怪訝そうな顔をみせた。しかし、続く言葉に顔を真っ赤にし、次に真っ青に、最後に真っ白な顔をした。



「フォルテ様から神託が降りて、君の持っている『ハルさまにんぎょう』と同じものを要求してるんだ。都合、つく?」



 シャルロットからすれば青天の霹靂である。

 『ハルさまにんぎょう』とは、彼女がこだわりにこだわり抜いて自ら縫い上げたまさに一点物。ハロルドをデフォルメ化した可愛いぬいぐるみである。

 彼女は王都にそれなりに存在するハロルド隠れファンの一人である。家族以外には完璧に隠し切っていた。ハロルドにも知られていないはずだ。



「その、これは」


「俺はこれ以上関与しない……というか、まぁ害があるわけでもないから気にしないけど、嫌だったら俺も一回フォルテ様に掛け合ってみるよ」



 言い訳をしようとしたシャルロットだったが、目の前のハロルドがあまりにもケロッとしているので困惑する。

 ハロルド的には「真面目に働いてくれてるなら、それくらいいいか」というような感覚である。周囲にも特に迷惑になっていない。ある意味ブライトを追いかけていた時のエリザベータ、その暴走を見てきた弊害といえるだろうか。



「とりあえず、エリザにだけバレないようにね」



 そう言ってハロルドはパチンと指を鳴らす。それと同時にルクスがゆっくりとその肩に座った。

 いつの間にか防音も兼ねた結界が張られていた。それが崩れ落ちたのがわかる。



(さすが、ルビー侯爵令嬢の監視をさらりと受け流すお方だ。全く動じておられない)



 もはや慣れである。

 ハロルドは呑気に「この感じだと勝手に絵とかも描かれてそう」と思っているが、正解だった。ハロルドの絵は同好の士の間でコソコソとやりとりされていた。

 空気を読まない女神様のせい……いや、女神のおかげでハロルドは少しの間だけでもこの後に待つ憂鬱な出来事を忘れられた。実際に彼女が「ハルがあんなんで傷つく必要はないのよ〜」と精神状態に少しだけ手を加えていることなんて人間が知れる話ではないのだ。そのせいでハロルドは自分を「薄情だ」と思った。

女神は雰囲気を破壊する天才。

ハロルドの隠れファンはそれなりに多い。何でもないように人助けしたりするせい。

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