19.思わぬ再会2
気絶したペーターを連れて戻ると、暗い顔をした聖騎士やジョシュアが送り出した護衛騎士がいた。ノアは忌々しげに報告を聞いている。
「あ、ハロルドくんそっちは……辛うじて一人、生存してた感じ?」
「そうです。ダンデュライトさんの方は」
「さっきまではこっちも一人、ギリッギリで生きてたんだけどダメだった。というか、魔物にもめちゃくちゃ追いかけられて死ぬかと思ったよ」
「それ、例の香水の原液っぽいのがかけられてたからですね」
ハロルドの言葉にノアは思いっきり嫌そうな顔をした。甘い香りがしたのも一緒であるのか「無臭だって聞いてたけど」とノアが口に出すと、ルアが「それはそういう風に加工しているからだろうな」と言う。
「もしかして君が言いたかったのって」
「そうだ。あの湖の花。アレが香水に使われているようだ。そして、この領地原産のある薬草と合わせると人間にはその香りは感じられなくなるらしい」
「誰かから聞いた感じの口調だねぇ」
ノアが顎に指を当ててルアを見る。その問いに「湖の精霊から聞いた」と彼は何でもないように告げた。
「ああ、やっぱりいるんだ」
「あの花が邪魔で出てこれないらしい。ちょっと昼寝をしていたら湖を覆っていたと言っていた。まぁ『ちょっとお昼寝』が数十年規模だったことは擁護できない」
ルアが呆れながら言う。湖に住まう精霊はとてもマイペースで、特に魔物を排除したりなどもしていなかった。たまにもらう作物などのお礼に水に困らないようにと雨を降らしたり、水の管理を多少行っていたようだ。
ただ、本当にマイペースな精霊であったため、うっかり数十年規模で寝たら湖が変な花でいっぱいになり、出てこれなくなったせいで今は水底で泣いている。それでも今まで旱魃が起こっていなかったのはブランがいたことで土地に精霊の魔力が馴染んでいて、湖から漏れた魔力だけでも土地を潤すのに十分であったからだ。
「……ある年を境に水が豊かな土地になったという記述と、旱魃の理由がこんなことでわかるとは」
ノアが呻くように言った。元々、水も精霊頼りだったのに湖を得体の知れない花で覆って精霊を閉じ込めてしまったのが悪い方向へ向かっている。その精霊は美しい湖に住まうことで力を得ていたため、現在は水底で泣くしかない存在になっている。
「可哀想だけど……」
「昼寝してて弱るなんてだっっっさぁ」
ハロルドの困惑するような言葉にリリィは容赦なくそう続けて深い溜息を吐いた。ブランのこともあるので余計にそう思うのかもしれない。
精霊を助けるための手段は後で会議をすることを決める。そして、ノアはもう一つハロルドに告げなければいけないと口を開いた。
「そういえば奴隷商も捕獲したよ。契約書なんかを見ても、元ハンベルジャイト伯爵家とフォルツァート教が罪を犯していたのは間違いない。近く彼らを王都に送って裁きを与えることになる」
「わかりました」
「それと……もしかしたら、違うかもしれないけれど」
言いにくそうにノアは目を伏せた。けれど、黙っておくこともできないと再度口を開く。
「君の、母親らしい者が商品の中に居た」
ハロルドは大きく目を見開いた。そして、自分を落ち着かせるように、ゆっくりと息を吐く。
「こんな時に」
「もちろん、別人の可能性もあるよー?だからそんな顔しないの」
奴隷商に捕まっていたとしてもおかしくはない。親の気持ちも考えずにおかしな価値観を持ってしまった世間知らずの女性だ。村を出た時のハロルドの母、ミィナはとても美しい女性だった。
とてもまともな状態でいるとは思えなかった。
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