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【書籍化】巻き込まれ転生者は不運なだけでは終われない【4巻制作・コミカライズ化決定!】  作者: 雪菊
5章

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18.思わぬ再会1



 ウルフたちを追いかけるハロルドたちは、だんだんと濃くなってくる血の臭いに眉を顰めた。魔法で強化していることで非常に速度が上がっているとはいえ、人と獣の走る速度は違う。追いつくのが難しい。



「ローズが追ってくれているから道が分かるのはありがたいが」


「リリィ、距離は」


「ケッコー近いかもぉ!」



 シャルロットのボヤきを耳に入れながら、ハロルドはリリィに問う。ネモフィラはミハイルの後ろで「もっと頑張って。死ぬ」と呟き、ミハイルも「頑張ってます!!」と叫び返していた。

 狂ったように走るウルフたちはいきなり立ち止まって遠吠えをした。それは獲物を見つけたという歓喜の声にも聞こえる。その後すぐに怒りの籠った呻き声に変わる。



「ローズが焼いたな」


「くっろ焦げぇ〜」


「こんがり」



 慣れたようなハロルドたちの言葉にミハイルはちょっと遠い目をした。「僕もそのうち慣れてしまうんだろうか」という考えが浮かんだ。アーロンがここにいたならば「よっぽど気にする性格してねぇ限りは慣れるな」と言って背中を叩いたかもしれない。

 追いつくと、ローズはウルフたちを鼻で笑いながら、「ハルたちが来るまで大人しくしてないアンタたちが悪いのよ」とその中の一匹をこんがりローストしていた。他二匹も息絶え絶えだ。

 ハロルドに気がつくと、表情をパァッと明るくして「ハルー!!アタシ、ちゃんと人助けしたわよ」と手を振った。その様子は愛らしい少女に見えるけれど、地面に転がる焼死体を見ると、ミハイルはちょっと顔が引き攣る。ハロルド、エリザベータ、シャルロットは普通にしているが、彼らについてきた数名の聖騎士はドン引きしている。



「うん。さすがローズだ。ありがとう」


「ふふーん、とうっぜんよ」



 嬉しそうに肩の上へと座る。物騒な妖精はハロルドの前では可愛い女の子だ。キュルルンとハロルドを見上げる彼女を見ていると、とても焼死体量産系物騒妖精には見えない。

 シャルロットが前に立ち、そこにいた孤児を確認する。その姿にハロルドは目を見開いた。



「……ペーター?」



 震えた声に気付いたエリザベータはほんの少しだけ心配そうな顔になる。

 それには気付かず、はくはくと口を動かす少年を見て「話せないのか?」と問いかける。悔しげに俯く姿を見て、唇を噛んだ。シャルロットが静かに「喉を潰されているようです」と告げる。



「上級回復薬であればおそらくは治せましょうが」


「上級回復薬は王都に屋敷一つ建つくらいの金額が必要ですね」


「聖女殿も今まで碌に学ばせていなかったことが原因なのか、そこまでの治癒術はまだ使えませんしね」



 シャルロットとミハイルの言葉に、ハロルドは頷いた。二人はそれが「無理だ」という判断をしたと思ったが違う。ハロルドは「それなら何とかなるな」という思いで頷いていた。

 ルクスがハロルドの手のひらに立つ。もう片方の手で中級回復薬(高品質)を持つと、目を合わせて頷き合った。



「ルクス、頼んだ」


「ふふ、任せてください」



 ハロルドとルクスの魔力は混ざり合い、柔らかな、淡く白い光となって回復薬の瓶を包み、それはゆっくりと中の液体に吸い込まれていく。やがて、それは明るい透き通った液体に変化した。



「これでいけるだろ」



 唖然とした周囲はハロルドがペーターに薬を与えるのに気がつくのが遅れた。飲ませると身体がぽわんと一瞬柔らかな光に包まれて、おおよその怪我が治っていた。とても中級回復薬の効果とは思えない。



「やっぱりそうか。実験成果としてとりあえずアンリ殿下に伝えておくか」



 ポカンとする周囲をよそに、ハロルドとルクスはもう興味を移していた。

 ペーターに「喉はどう?」と問いかけると、彼はおずおずと自分の喉に手をやった。戸惑うように小さく「ぁ……ぁ……」と声を出す。口から溢れた自分の声に驚いて、感極まった様子でポロポロと涙をこぼし始める。

 その一方で「声出るみたいだな」とハロルドは立ち上がった。彼は「これであのゴミ共の愚かな所業をきちんと報告してもらえるな」と考えている。善意だけの行動ではなかった。



「ハル」


「おかえり、ルア。報告がありそうだけどとりあえず離脱するよ」



 戻ってきたルアは何かを報告したいという様子だったが、今の状況で動けるとは思えなかったので、帰還してから報告を聞くことにした。

 とりあえず女性陣に後ろを向いてもらってペーターを水洗いし、ハロルドの服を着せる。元々着ていた服を燃やすと、上空に帰還するという意味合いの緑の煙を打ち上げる。彼らはそこから急いで立ち去った。



 しばらくまともに食べておらず、フラフラしているペーターは聖騎士の一人に担がれていた。前方にいる幼馴染の姿を見て、彼はその中に信仰を見出した。

 優しく、強い幼馴染。

 ハロルドを見ていると己の兄だった存在が紛い物であると思えてならない。



(ああ、おれの——かみさま)



 ハロルドの打算と善意が、また変な方向に作用しようとしていた。

——アカン……

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