8.神からのギフト2
元々、スキル自体が“神からのギフト”と呼ばれている。
精霊や妖精からスキルをもらうこともあるのでそれは正確に言えば違うのだが、その名に違わぬ力を示す者は多い。
その中でも勇者や聖女、賢者などの高名なジョブスキル、もしくは愛し子や寵愛といった加護系のスキルの持ち主は各国が必死に引き込もうとするレベルの破格の代物だ。そんなこととは知らされぬままハロルドはフォルテの加護を受けていた。
神から愛された人間は、国や対応する神の教会に保護されることが多い。そして、半数から6割は特別扱いされることで傲慢になったり我儘になったりする。神の特性によっては「そうなったのは人間のせい」として加護をそのままにするにしても、剥奪するにしてもその責任を負わせる。放り投げれば祟る。それはもう、国の責任者が変わったり、国そのものが滅びるくらい。
エーデルシュタイン王国には20年と少し前、フォルツァートを信仰する教会が身元引受人となった賢者がいた。彼は異世界より召喚された少年だった。最初はおとなしかった少年は、自分のスキルや加護を知り、思いのまま操れるようになるとその力で周囲を押さえつけ、欲望のままに暴れ回った。教会が許可されてもいない召喚を行い手に入れた賢者。それを唆したせいで魔族との関係も悪化し、一時は戦争間近というところにもなった。仕方なく彼を閉じ込めればフォルツァート神は怒り、王都近くの作物を全て枯らしてしまった。
神とは、自分の“お気に入り”に対してはひたすら甘い。対象者が危害を加えられたと感じれば神罰とも取れる現象を引き起こす。特に顕著なのがこの世界において主神である神だというのだから困ってしまう。
そして10年ほど前、まだウィリアムが学生だった時代に現れた聖女も酷かった。彼女は隣国の男爵令嬢だった。転生、乙女ゲーム、ヒロインなどと訳のわからぬことを言って情勢を乱して回った。魅了の力を使い高位の貴族令息や王子を誘惑して己の取り巻きにし、それだけでは足りぬとこの国にまでやってきて見初めたのがウィリアムだった。
主神はウィリアムを救ってはくれなかったが、女神はウィリアムを守ってくれた。だからこそ彼はその敬虔な信徒として仕えている。というか、その身分を捨てなくては聖女と名乗る不届者が離れなかった。そのため、嫡子だった彼は実家の継承権を手放すことになった。その女は事故で死んだとされるが実際は王子と両思いだった令嬢が聖女と共に崖に飛び込み、心中するという形で殺した。その時もフォルツァートが令嬢の実家を祟った。
フォルツァートはとにかく気が強くて欲深い女と、力に溺れて横暴になり色を好む男を選ぶことが多かった。
他の神や精霊などの加護の持ち主も暴君へと変わることはあったが、フォルツァートの加護の持ち主ほどではない。人を見る目がないにも程がある。
(それに比べて、ハロルドくんは大丈夫そうだ)
実際、ハロルドからの問いは“どうにか特別ではないただの少年として暮らしたい”という訴えととれる。
ハロルドはこれ以上の神様案件の事故とかはお腹いっぱいだった。英雄になりたいと願うほどに夢みがちでなければ、そうなったとして自分がそれに相応しい精神性を身につけられるという自信もない。人生に挫折は付きものだ。それをもうある程度経験してきている魂の持ち主であればこそ、身の丈にあった暮らしを、と願っている。
「そうですね。正直なところ、君のスキルは全て珍しいものです。有益なものしかありませんしね」
ハロルドのジョブスキル“錬金術師”は多くはないが持っている者も珍しくはない。調合・錬成、場合によっては医学の方へ進む者もいる。多くは研究気質でやや引きこもることを好む。
錬金術師という職業適性よりもハロルドの場合はスキルの方がそれなりに目立ちそうだった。鑑定の魔眼は希少だ。貴族も商家も冒険者も、多くの者が欲しがるだろう。異空間収納も所持していることで余計に価値がつく。
それよりも破格なものは“緑の手”というスキルだった。20年前に国を救った辺境の少女もまたこのスキルを女神より授かっていた。要するに、どこに行こうと作物を育てられるスキルである。これは特にフォルテが与えたスキルではない。彼の元から持って生まれたスキルだ。このスキルのおかげで飢える国民は少なかった。そのせいで国にとってはこの緑の手というスキルは特別なのだ。
それに加えて女神フォルテの加護を持つ。勇者もフォルツァートの加護を得ているが、その性質故に国では要注意人物となっている。今の所、目の前の少年は彼のように最初から御し難い厄介な価値観で生きていないと見られる。
「そうですね。スキルは基本的に使わないことを勧めます。その上で錬金術師のみの開示にするのがまだマシでしょう」
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
「その上で、おそらく国と教会から保護と後見の申し出があるでしょう。これは君と周囲の安全のために必要なことになります」
美しい見た目とそのスキルや加護を目当てに権力者たちが争うのは目に見えている。現状まともと言えるのは国の方ではある。この国がいくら「どの神を信仰しても良い」としていても主だった神はフォルツァートであるし、教会の元締めもまたその信徒である。女神の教会で身元を預かるのは難しい。厄介なことに加護を得た者は全て主神の元で祈りを捧げるべきだ、などという人間もいるのだ。
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