8.王子様達も一緒3
領地に入ってしばらくすると、困窮していそうな村が見える。ハロルドの与えられた資料には税率が他所よりも少し高めに設定されていたことや、元々観光地であったという記載から比較的裕福な土地だったのだろうと思っていたが、少しみた限りでは最近困窮した、というような状態ではない。むしろ格好やその痩せ方からも「ずっと」困窮していたのではないかと考えられた。
(場所ごとに税率を変えていた、みたいな話は聞かなかったしな。それにしても、一応観光地だったんだろう?であれば、目に見える範囲くらいは取り繕っていたはずだ。どうしてこうなっている)
ハロルドは眉を顰める。ミハイルは「この辺りは、何か臭いものを隠している感じしましたけど、本当に当たりだったとは」と口に出す。その声も呆れと怒りが混ざったような複雑な心境を表している。
「ハンベルジャイトは先代が亡くなってからフォルツァート教会の連中が幅を利かせていた。見えるか?あそこだ」
「教会だけ妙に綺麗ですね」
「この辺りの村の人間からの搾取とこの間まで伯爵を名乗っていた愚か者の献金で作られた、砂上の楼閣だ」
そして、その教会の周りだけ花々が美しく咲いており、周辺もどこか整備されているように見える。
「景観としては最悪ですね」
「今はな。この辺りは教会の連中が編んだ幻惑魔法で見えないようになっていたらしい。フォルツァートは信仰する者の中で気に入った人間がいれば加護とまではいかずとも、その人間が望む強いスキルを適当にぽんと与えてしまう。そのため、厄介な術師を複数抱えている」
「うちの女神様って立派なんだな」
フォルテのことも若干「ポンコツだな」と思う時があるハロルドだが、比較対象がこれではだいぶ立派な神に思えてくる。
彼女は基本的に「今を生きる者達と積極的に関わるのは、私もアレと同じことをやらかしかねないわ」と傍観の構えである。魔王を倒せるように多少の力は貸せども、それはこの世界から今を生きている者達への試練であるため、直接始末もできない。
「あの連中が粛清されたことで、本来の姿が表出したらしい。……父上たちが距離を置くはずだな」
最後の言葉は小さく、自嘲するような声音であった。
自ら進んでそんな連中と関わりを持ってしまったのだ。兄に見捨てられても仕方がないと今では思っている。
「とりあえず内部調査してもらって、クソだったらあそこの教会の職員罷免するか」
友人のお兄ちゃんを慰めるつもりのないハロルドは、面倒はさっさと排除したいとばかりにそう決断した。
「ハル、面倒事嫌いですもんねぇ」
「俺たちも嫌い。ハルの敵は俺たちの敵」
ルクスとルアがミハイルの肩の上で「悪い方々はぶっ飛ばしましょう」「おう」と拳を挙げている。
「ミハイルも自衛くらいはできるようになりなさいよね!」
「ボク、ハルしか守らない」
「ウチはハルのおまけくらいでなら守ってあげるけどぉ、期待、しないで?」
妖精たちにせっつかれて乾いた笑いを漏らす。ミハイルは「やることが、やることが多い……」と思いながら遠くを見る目をしていた。
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