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7.神からのギフト1




 儀式というのは、国が魔力量やらスキルを把握するためのものだ。水晶玉に手を翳してそれがスキル名、数値等として現れる。さらにそれが神官によって書き取られると言った仕組みらしい。

 ハロルドはそっと溜息を吐く。正直なところ、自分のスキルを他者に知られたくはなかった。田舎に引きこもってゆっくりしていられればそれでよかったのにと思わざるを得ない。


 三つほど部屋があり、順番に名を呼ばれる。そして、担当の神官に能力を見てもらって面談を行うというのが流れだ。



「ハロルド」



 名を呼ばれて部屋へと入る。

 そこにいたのは見事なまでの白銀の長い髪にライラックのような瞳を持つ青年だった。白の神官服がよく似合っていて清廉な雰囲気を出している。



「こんにちは。初めまして、ハロルドくん。私はウィリアム・アメシストと申します」



 にこやかに話しかけてくるウィリアムはどこか落ち着く雰囲気の持ち主だった。つい先ほど、ダメな大人認定の担任教師を見たからなのかすごく立派な大人に見える。



「初めまして、ハロルドです。平民なので姓はありません。よろしくお願いします」



 しっかりと頭を下げる。ハロルドは高貴な人の挨拶などは知らない。なのでその姿勢は日本のビジネスマンのような礼と笑顔だった。

 ウィリアムはハロルドに椅子に座るようにすすめ、それに従う形で彼は対面に座った。



「聞いていらっしゃるかとは思いますが、今からこちらの水晶であなたのスキルや現段階での能力を見させていただきます。また、私たち神官には守秘義務があり、国家のみにしかあなたの能力を報告することはありません。学園職員に対して開示したくない情報がある場合は、書き取った内容をお見せしますので申し出てください」



 意外と良心的な言葉にハロルドはパチパチと瞬きした。ハロルドが担任の態度を見た感想が「コイツに教わるのかよ」だったこともあって、愛想のいい目の前の神官に好感を得ている。

 親切なふりをして悪意を隠し持っていることもあるかもしれないが、そういう人間に対してはハロルドは“何となく嫌な感じ”を覚えることが常だった。彼からはそういう感覚を感じなかった。



「分かりました」



 人間関係は初対面時の印象がある程度は重要になってくる。それを踏まえると、担任に全部を開示する気にはなれない。少しだけ安心した。



「それでは、この水晶に手を翳して……はい、そのままゆっくりと魔力を注いでください」



 言われた通りにすると、水晶が淡く光を放ち出す。温かい緑色の光にどうしてか女神の得意げな顔を思い出した。ペンを動かして驚いたような顔をするウィリアム。その様子を見ながら少し不安になる。


 やがて、光が収まるとウィリアムは左手を十字を切るように動かし、それを胸に当てて頭を下げた。それは女神フォルテの教会で祈る時の正式な作法だった。ちなみに主神フォルツァートの信徒は右手でそれら一連の動作を行う。



「女神フォルテ様の寵愛を受けておられる方でしたか。無礼を失礼致します」


「何それ、知らん。こわ」



 いきなり頭を下げられて怯えが勝った。素の反応をしてしまったハロルドの目にはなぜだか、水晶玉の中に「てへぺろ」と頭をコツンと叩きながら誤魔化すようにしている女神が見えた。

 スッと目を細めたハロルドを見てフォルテは「私のイメージが下がらないように何とか」と念話のような形で言ってきた。



「なるほど……。おそらくあなたが平民であることに遠慮をして寵愛を授けたことを黙っておられたのですね」



 穏やかに微笑むウィリアムを見ながら、寵愛がいつ与えられたものかを考えて、1年半ほど前、自分が移住してそう経っていない時に夢で主神の行いのとばっちりがいかないようにと加護を与えると言われたことを思い出して頭を抱えそうになった。紛れもなくそれである。

 加護と言ってもささやかなものだろうと考えていて、こんな場面で現れるものだと思っていなかった。本当は学園に来るつもりではなかったので気軽に「ありがとう女神様!」くらいに思ってもらっていたそれが結構影響の大きなものだった。


 そして、ウィリアムが書き写した自分のデータを見て説明をしてもらうとそれにも顔が引き攣った。



「流石神の寵児です。これだけのスキルを持つ者は勇者やせい……失礼。少し気分が」



 真っ青になったウィリアムは一呼吸置いてから「すみません、アレらに少しトラウマが」と言った。勇者だという幼馴染が母親とあれこれしていたという精神的苦痛を味わったハロルドは「過去の奴らもマジでやらかしてるんだろうな」と眉間に皺を寄せるだけだった。



「いえ、それで何個くらいが普通なのですか?」


「通常は一つか二つほどですね」



 その言葉でハロルドは現実逃避したくなった。「これ絶対ダメなやつ」としか思い浮かばない。



「どうにか普通の生徒で済む範囲で誤魔化したいんですけど」




 そう言うと、現勇者のやらかしっぷりを知っているウィリアムはどこか嬉しそうに微笑み、頷いた。

 国と本部には報告をあげなければいけないが、基本的にエーデルシュタイン王国は「神やその愛し子になるべく頼らず、甘やかしてモンスター化しないように」という方向性に舵を切っている。ウィリアムが学生だった10年ほど前に隣国にて召喚された聖女の影響は大きい。



(まぁ、アレは聖女ではなく()()でしたが)


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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