2.婚約者様も一緒
アーロンを村に送り込んでからルビー侯爵家へと向かい、領地を見てくるという話をすればエリザベータは「では、わたくしも参りましょう」と何でもないように言った。
「ハルだけでは心配です。あなた、自分が動く度に結局、誰かを助けて頭を抱えているのですもの」
「どうしよう。反論ができない」
「ハル、仲良い人はアーロン以外問題抱えてるもんねー!」
「ハル、人が好いから」
「そこも可愛いわよぉ?ウチらがいなきゃダメダメだけどぉ!」
妖精たちはそう言いながらハロルドを追撃していた。ルクスは「ハル、大丈夫ですよ。だからお姉さんたちもあなたと一緒にいるんですから」と言ってリリィに蹴られていた。ルアは「図星」と言うと、ローズに連れて行かれた。男の子組は生まれてそう経っていないからか立場が弱かった。
「リリィ、ローズ。あまり虐めてやるな」
仕方なく二人を回収して目の前に座らせる。
なお、彼らは一瞬後ろを向いて得意げな顔をし、ローズとリリィの神経を逆撫でしていた。ネモフィラは我関せずといった様子で頭の上に転がっている。
「相変わらず自由な方々ですわね」
「まぁ、慣れれば可愛いよ。それに、こういう賑やかさは嫌いじゃない」
「あら、悪い方」
可愛いだけを切り取って照れる三人の妖精たちを見ながら、エリザベータは割と本気でそう言った。ハロルドのような人並外れた美貌を持つ少年の笑顔は妖精にも効くらしい。自覚なしでやっているからタチが悪い、と思いながらもやはり何も言わなかった。その方が面白いと思ったのである。
「一応王家に届け出を出しておくよ。少なくとも一回は行かないと扉?が設置できないし」
「ハルの頼みだもん!アタシ頑張ってあげるっ!」
「ボクが一番」
「ふふ〜ん、ウチらにおっまかせ〜」
ハロルドが大好きな妖精たちは頼りにされてウキウキである。ハロルド自身は「見捨てられたら、俺色々と終わる気がする」と思っている。それくらい彼女たちはハロルドに与えている影響が大きかった。
「お願い致しますわ。ついでに不肖の弟も引き取ってきていただいても?」
「本当にいいの?」
「ええ。あと、他に関しては心底どうでもいいのであなたが思うように処分していただいてよろしくてよ。おじいさまも含めて」
エリザベータの言葉に苦笑する。
タンザナイト伯爵家前当主はなぜか自分の意見が通ると思っているのか、「息子一家を貴族籍から抜いて孫娘を返してくれれば自分が全てを解決する」と言っていた。当のエリザベータは「どうともできないから今がこうなっているのに気付かないの。流石、あの父の血縁だわ」などと失笑した。ハロルドはエリザベータが「要らない」というタンザナイト伯爵家に興味はないので「レアな笑顔」くらいに思っていた。見るところが違うだろうと突っ込んでくれる友人はただ今帰郷中だった。
引き取る、という話は王家から「こんなことになってるけどどうしたい?」と問い合わせがあったため、エリザベータの「弟だけ助けてあげたい」という意思を汲む形になった。ついでにハロルドも「まともそうだし良いんじゃない?」とミハイルの釈放にだけかかる金を払った。エリザベータの両親と異母妹は彼女が自分たちを助けてくれると思っていたらしい。己のした仕打ちを棚に上げて。
「ハルこそ、わたくしの弟を助けるためにお金を払ってもよかったの?」
「偶然とはいえ、エリザの幸せを祈る姿も見てるし、仕事はしてもらうつもりだからいいよ」
元々、入学時からAクラスにいる少年だ。頭はそこまで悪くない。貴族の生活を知る同性・同年代の存在も必要だろうという判断もあった。変な押し込みで身の回りの世話をする人間を受け入れるよりも、婚約者がその人柄を認める少年をそばに置く方がいいだろうという考えもある。
気持ちを切り替えようとお参りに行った先に異母姉の婚約者になったハロルドがいたのだから、彼の『直感』スキルもバカにできないものだった。
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