1.旧ハンベルジャイト領
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娘だけでなく、親も教会がらみで色々とやらかしていたようでハンベルジャイト伯爵領は王家預かりとなっていた。まだ残党狩りをしている最中ではあるが、この度そこはアンバー男爵領になった。
スタンピードは起きるわ、教会の運営していた孤児院は問題を起こすわ、土地は荒れているわのやばい地域を割り当てられてハロルドはまた頭をかかえていた。
「問題しか起こらない!!」
「おー、がんばれ」
神狼フェンリルであるスノウに雑な声援を受けながら、書類に目を通す。今日の家事当番はアーロンなので、その手伝いのために人型をとっている。
旧ハンベルジャイト伯爵領は(フォルツァート教に貢ぐために)税率が高く、(フォルツァート教に貢ぐために)精霊樹を切り倒し、そのせいでスタンピードが起こるものの今まで魔物の駆除の多くを精霊ブランに頼っていたため大きな被害を出し、結果家が取り潰された。それ以降は王家の管理下にあったが、狡猾な者、最後にリスクを抱えてでも一稼ぎしようとする者が問題を起こしているようだ。
フォルツァート教はまだ存在してはいるが、その中でも真面目にしている者たちに上がすげ替わっているし、管轄は国に替わった。そのようなことをしている者たちは見つかり次第破門の上裁判にかけられ、多くの場合に国外追放、または罪の度合いによっては強制労働所に送られたり処刑される。
ハロルドにそんなヤバい土地が下賜されてしまったのにも理由があった。
その地はかつては精霊が住み着き、そのおかげで魔物に人が襲われることが少ない土地であり、非常に景観の良い観光地であった。王都からそう遠くないこともあって、毎年多くの貴族がそこの森にある美しい湖に訪れていた。
ところが現在、スタンピードが起こってしまったことで話は変わった。精霊に見捨てられ、森はどこか不気味に変貌し、その中では魔物が跋扈する。いつの間にか質の悪い冒険者の狩場にもなったそこではとても陰惨な事件が起こっているらしい。
とはいっても、この事件などに関しては別の担当者がつけられている。
ハロルドがこの地を任されたのはスタンピードでボロボロになった土地を癒し、植物を育て、民の暮らしを支えるためだ。家畜を魔物に食われた者、果樹を押し潰された者、今まで栽培していた土地を汚された者。そういった者たちの暮らしの再建をするのに彼の力が必要とされた。
再建に必要な金銭は王家からの援助が出る。それに、押収した旧ハンベルジャイト領の金銭も少しはあるらしく、それも利用するとのことである。
「先代までがいくら頑張っても当代がクソだとこんなにあっけなく没落するんだな」
「……そうだね。問題がまた違うとはいえ、タンザナイト伯爵家も没落の仕方が異様だったし」
ハロルドがフォルテの神殿でエリザベータの異母弟とすれ違った後、程なくして没落した。エリザベータすら「それほど無能でしたの?」と少し驚いていた。
何でも、すごいスピードで騙されたりぼったくられたり、えげつない金額の買い物をしたりですぐにダメになったそうだ。ハロルドとエリザベータからのお願いで異母弟だけは別に保護してもらっているが、先代の伯爵が「まとめて処分して構わない」などと言っている。あくまでも先代にそんな権限はない。勝手に言っているだけである。
「まぁ、任された理由も理由だし、ちょっと見てくるかな。……俺も帰りたかった」
ハロルドの言葉を聞いてアーロンは苦笑しながら「お前、領地もらったんだから帰る場所って言うならそっちだろ」と言うと、拗ねたような顔で「違うし」と書類を置いた。
「俺の帰る場所はじいちゃんとばあちゃんがいるところだ」
「ブレねぇな」
そんなハロルドを見たアーロンは、そのことに安心したような声を出した。
権力を得て変わる人間というのは案外多い。友人がそうでなかったことは喜ばしい反面、不安もある。基本的にハロルドが求めているものは権力や金銭などよりも、穏やかで平和な暮らしだ。
(本当に、これ以上面倒なことにならなきゃいいけどな)
アーロンはそんなことを考えながら、ハロルドのクッキーを横から摘んだ。ハロルドがこれくらいなら「仕方ないなぁ」くらいで済ませてくれることを彼はよく知っていた。
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