35.初めての夜会3
職業、エーデルシュタイン王国国王、リチャード・ダイア・エーデルシュタインはこの国にいる、創世の女神のとびっきりお気に入りな少年と目が合って少しだけ「マジで貴族にしてスマン」と思いながらもいつも通りに厳しい顔でその場に立っていた。プライベートではちょっと口の悪いだけの気のいいおじさまだが、王として立つにあたっては親しみやすさなど出しては舐められるだけだった。アンリもまた人を近づける気のなさそうな表情だ。
彼らが壇上に立つと、会場も一時静まり返った。皆が一斉に頭を垂れる。
「楽にせよ」
その声に、少しずつ姿勢を戻していく。
宰相であるカーティス・アメシストがリチャードの合図を受けて「これより、叙爵の儀を執り行います」と告げる。
今回叙爵される者の名前が読み上げられていく。やがて、ハロルドも名前を呼ばれる。エリザベータをルビー侯爵夫妻に預けて、彼も列へと並んだ。
誇らしそうに胸を張る者たちの中に自分がいて良いのだろうか、などと思うハロルドではあるが、自分の成果とされるものがどれだけ大きいかも知っているので姿勢良くそこで立っていた。真っ直ぐに壇上を見るその姿は堂々として見える。
順番に呼び出されて与えられる爵位やその理由を発表される。
そしてハロルドの番になって、壇上に上がる。まだ子どもといえる年齢の少年が叙爵することに驚いた目をする者たちも多かった。
「ハロルド。この度、悪しき者たちの企てから王族を守り、またバリスサイトの復興に貢献したその働き見事であった。その功績を以て、男爵位を授ける。これからはアンバー男爵と名乗るがいい」
「謹んで承ります」
丁寧に礼を執る。それに加えて、「今後の働きを期待し、婚約者、未来の伴侶としてエリザベータ・ルビーを指名するものとする」という宣言が出される。ざわめく声が聞こえながらも「ありがたき幸せ」と述べたハロルドにリチャードは鷹揚に頷いた。王命が出たのだ。恨みがましく二人を見ていた令息、令嬢たちも諦めざるを得ない。そして、一部の者たちは侯爵令嬢となったエリザベータが与えられたという事実に「男爵では終わらない」「只者ではない」と考えてこれからの行動を思案する。
(ああ……承りたくないなぁ)
ハロルドは心の底からそう思っていたけれど、それをおくびにも出さずに壇上から降りた。
すぐにエリザベータたちと合流する。
「帰っちゃダメかな」
「ダメですわ」
笑顔のまま小さな声でそう言った彼に呆れた声で言う。大人びていても、やはり十三歳の男の子なのだな、と少しだけ疲れて見えるハロルドに「仕方がないわね」と(比較的)柔らかい目を向けた。
二人は手を取り合って、ルビー侯爵に紹介された貴族や、アンリたちと談笑してからルビー侯爵家に行った。
今日は泊まっていくといい、というオーウェンの言葉に甘えて、ハロルドはきっちり翌朝に朝食までいただいてから帰ることになった。
「夜会なんてもう出たくない」
「そんなこと言ってるとまた何かに巻き込まれて出る羽目になる気がするな」
帰宅後、ボヤくハロルドにアーロンがそう言うと、「縁起の悪いこと言わないでよ」と眉を顰めた。
「だいたい、そんなに頻繁に問題が起こってたまるか」
アンバー男爵となっても、そんなに早く生活が変わるものではない。すでに王都の貴族街に家はあるし、警備も王家から出ている。ハロルドのこれまでの事情も考えれば使用人を入れるよりもこのままの方が安全である。
やっと一息いれられる。
ハロルドはアーロンに出してもらったお茶を飲みながらホッと息を吐いた。もう面倒は懲り懲りである。
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明日で4章終わりです。




