34.初めての夜会2
エリザベータをエスコートするハロルドは会場で目立った。多くは見たことがない美しい少年を見て目を見開く。
ハロルドの美少年っぷりも目立ったが、隣で時折表情を和らげるエリザベータもまた視線を集める。彼女の変化を見た令息の一部が臍を噛んだほどだ。近づこうにも、彼らは会場ですぐにルビー侯爵家の当主夫妻と合流し、談笑を始めた。そこに割り込める身分の人間はそう多くない。
「やはりあなたは目立つわね」
「人のことは言えないでしょう?」
ハロルドは少しだけ呆れたようにそう返してから、目線をエリザベータを熱を籠った目で見つめる令息たちに向ける。冷ややかなそれに一瞬怖気付いたような顔をした。
「温度差がすごい」
エドワードが小声で呟く声に、ルビー侯爵夫妻が頷いた。
ハロルドがエリザベータにだけ向ける眼差しに、焦がれるような目を向けている令嬢も少なくはない。
男女問わず、パートナーがいる者は知らない異性に見惚れる婚約者の冷ややかな眼差しを浴びていた。そこで気づいたならばまだ良い。だが、それに気づかない者の今後は芳しくないだろう。
王族が登場するタイミングで楽団が音楽を奏でる。
そこでようやくちらほらとエリザベータがジョシュア第二王子と共にいないことを怪訝に思う人間が現れ始めた。
王の後ろに王妃、王太子、側妃が順番に現れる。第二王子の姿が見えないが、彼はまだ謹慎中である。実行犯でも企んでもいなかった彼には呪いはかかっていなかった。だが、それでもアンリを殺しかけた者たちを城内に招き入れたことに変わりはない。簡単に出してはもらえるはずがなかった。聖女が真面目に勤めているのはこの辺りにも事情がある。
本日の叙爵式が夜会になったのは、辺境での戦いで戦果を上げた者や、国に大きな貢献をした者などの叙爵が本日行われることにも起因する。着慣れていないような感じで服を着ていたり、軍服で参加している者もいる。
「フィアンマ帝国との境に大旱魃が起こり、食糧の争奪で大きな戦いがありましたの。そこで戦果をあげた方もいるわ」
「その帝国って確か……美人集めてる場合じゃないんじゃないか?」
エリザベータの耳打ちに思わずそう呟いたハロルドだったが、声音に呆れは見えるものの、その表情はエリザベータに向けられているからか柔らかな笑みのままだ。それを見て、「意外と貴族が向いているのではなくて?」と思った彼女だけれど、口には出さないままだ。ハロルドが別になりたくてなっているわけでないことを知っている。
「彼の国に住まう女帝もそうですが、神もまた美しい者が好きなのだと聞きます。信仰している戦神は欲しい者は戦ってでも奪えという存在よ。とても激しい戦いになったと聞くわ」
その中でもずば抜けて優秀だったという魔法使いはハロルドと同じくらいの年齢に見える。
黒い髪にライトグリーンの瞳が印象的だ。どこか陰鬱な雰囲気を纏う少女は退廃的な美を纏う。軍服の少女はつまらなさそうに自分の爪を見ていた。
イオ・マリガー子爵令嬢。
圧倒的な魔法の才を寄親であるオパール侯爵家に見出され、幼い時から英才教育を受けてきた。そして、その対価だというようにオパール侯爵家が彼女を兵器として使用するようになった。
そのオパール侯爵家自体は王太子の暗殺に関わっていたとされ、国家反逆罪で裁かれることになった。けれどイオの存在はこの度の国軍の派遣まで、その存在を家ぐるみで隠されていたせいで気付かれることはなかった。本来、大きな力を持っていてもただの少女が戦場に駆り出されることはない。だというのに彼女は侯爵家の功績にするために最前線にいた。
国軍による保護とオパール侯爵家の取り調べの結果、彼女もまた国による保護を受けることになった。
そんな説明をエリザベータに聞きながら、目線を王に向ける。
ふと、その目が合った気がした。
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