31.ミハイル・タンザナイト
ミハイル・タンザナイトは異母姉を王家に売り飛ばし、ほくほくした顔で「何を買おうか」、「どこへ行こうか」などと相談している両親と姉にほとほと嫌気がさしていた。
丁寧に「元家族の接近を禁ずる」などと契約書に書かれていたせいで、異母姉エリザベータに引き継ぎすらしてもらえない。
(エリザベータ姉上がいなければ領地運営すらまともに回せない無能が、要らないことばかりしやがって!!)
救いは少しずつ接触を計って、多少なりとも教えてもらえていたことだろうか。だが、それでもミハイルが卒業するまでタンザナイト伯爵家が保つかに疑問が残る。
(ダメだ。あいつら、さっさと排斥しないと。でも爺様は僕達のこと大嫌いだし、殿下は謹慎中……。ああ、詰んだ、クソ親父のせいで僕の人生が終わる)
自分の部屋で髪を乱しながら頭を抱えた。
彼の父、現在のタンザナイト伯爵は仕事に関して真面目ではあるが才能がない。エリザベータの母親と結婚することで当主になる許可を得た。彼女の死後、すぐに愛人を連れてきた息子を前伯爵である祖父は許しておらず、絶縁状態だ。
これはミハイルの『直感』だが、彼が祖父を訪ねても門前払いされるだけだろう。それだけならばまだしも、優秀な孫娘を売り渡したのだ。タダで済むとは思えない。
「エリザベータ姉上に関する書類、まともに読まずにサインしたんだろうなぁ。クソ親父」
意図して会う度に罰金などと書かれている。エリザベータほどの人が社交界に出てこないわけがない。タンザナイト伯爵家は実質社交界を追われたとも考えられる。
「くそ、僕があと五年!五年早く生まれていれば!!」
十三歳で爵位を得るのであれば相当な功績が必要だ。そんなことができる人間は早々いないだろう。
それこそ神の寵愛でも得た者くらいにしかあり得ない話だ。
今のタンザナイト伯爵家はいつ沈むともしれない泥舟だ。
ミハイルにとって親と姉はどうでもいいけれど、領民達に苦労をかけるわけにはいかない。
悩んで、悩んで、どうしようもないと悟った彼は「困ったときは神頼みだ」とふと思い立ち、フォルテの神殿へと向かうことにした。フォルツァートの神殿はただいま調査中で閉鎖されていたという理由もあるが、このタイミングで神殿に向かう彼のスキルはやはり冴えているのかもしれない。
ミハイル・タンザナイト。
そのスキルは『直感』。
彼もまた、スキルのおかげでギリギリを生きているタイプの少年だった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
エリザベータ弟は苦労人。
☆お知らせ
「巻き込まれ転生者は不運なだけでは終われない」の書籍化が決まりました。
続報は色々決まったり、許可が出たり次第になります。
まだまだ頑張って続けていきたいので、今後ともよろしくお願いいたします。




