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29.顔合わせとまさかの人選



 最終的に「この顔で似合わん服とか逆にあるんか!?ないやろ!!」といろんな服をご用意されてしまったハロルドは、本番は晩餐だというのに酷く疲れていた。

 しかし、その甲斐はあったといえるだろう。シンプルながらも気品ある仕上がりになっている。藍色のジャケットには銀糸の刺繍があしらわれている。とても既製品とは思えない。ルビーが使用されたカフスボタン、タイピンを「いくらするんだろう?」という目で見てしまうハロルドは美しさよりも値段にビビる気持ちの方が大きかった。



(エーデルシュタインは宝石がよく取れる国らしいからまだ他国で与えられるよりは、うん。マシ……?)



 全然マシではない。この国でだって良い宝石はそれだけ値が張る。

 ハロルドには違いがわからないものであるが、高いのがわかれば絶対に身につけていられない。鑑定しようにも怖くてできなかった。


 そうして身なりを整えたハロルドの姿は服に着られている、なんて誰にも言えないくらいに美しかった。珠、大満足である。

 珠は算盤を弾きながら、「この度も良いお取引をありがとうございますぅ〜」とにこにこしていた。

 珠セレクトの服に着替えさせられたハロルドはアンリと一緒に部屋を出た。



「ハロルドはアンネに返礼品としてハンドクリームとかを贈っていたし、ルイにはリラクゼーション用品を贈っていただろう?あれ、うちの母親やエヴァンジェリン様にも好評でね。できれば珠殿のまねきねこ商会を使って売り出して欲しいんだ。レシピを登録してくれたら量産化は錬金術や薬学、調合スキル持ちを雇って行えばいいと考えている」


「はぁ……、そんなに売れますか?」


「売れるだろうね。肥料各種なんかも欲しい。使用料なんかの取り決めも王家立会の元で決めようと思う。あのバリスサイトの悪夢を終わらせたものだ。悪いようにはしない」



 内心面倒だとは思うものの、「不労所得があるのも何かあった時に悪くないか」と思い直した。

 肥料の多くはハロルドが一から作ったものもそれなりにある。パラケルススという存在は、あまり農業には力を入れていなかったのかレシピと呼べるものは少なかった。既存の回復薬を元に野菜用・花用・薬草用の肥料の調合を行い、鑑定しながら仕上がったのが今ハロルドの使っている肥料である。

 珠との出会いもある意味では顔合わせだった。


 アンリに連れられて、ある部屋の前まできた。部屋の前にいた侍従が目配せされてゆっくりと扉を開く。

 部屋の中には見事な赤髪の男性がいた。隣に座る栗色の髪の女性は微笑みを浮かべており、その真ん中に彼女はいた。

 長く真っ直ぐな銀色の髪に、美しい藍色の瞳。どこか近寄り難い雰囲気を持つ美女。()()()()その人に困惑していると、アンリが「ルビー侯爵、久しいね」と声をかけていた。



「ハロルド、こちらはルビー侯爵家の当主でオーウェン殿とその奥方、フィオナ殿だ」



 にこやかに「私の伯父夫婦だね」などと言うアンリに「何も説明していなかったのですか?」とオーウェンは呆れた顔を見せた。



「あなたも知っての通り、暇がなくてね」



 回復した途端、終わっていなかった仕事を文字通り吐きながら行っていたアンリはそう言って苦笑した。彼だって一人で仕事をしているわけではないが、それでも彼の担う量は多い。今回は裁判や組織再編なども絡んで大きな仕事が多かった。国王も無の表情で仕事をしていた。


 続けて、ハロルドも自己紹介をして席に着く。まさか侯爵家の当主夫妻が来ていると思っていなかったので緊張するが、それよりも目の前にいるエリザベータに目が行った。



「実はね、エリザベータ嬢とうちの愚弟が婚約を正式に解消するのだけど」


「はい」



 そうなるだろうな、と思いながら首を縦に振る。

 ブライト関連ではお騒がせだったエリザベータだが、その能力は非常に高い。王家としては「手放したくない人材」だった。

 ブライトを説き伏せてでも一緒にさせるという案もあったようだが、反応を見るにそんなことをしても碌なことにならないと悟った。

 そんな中、事件が起こって幸か不幸か、ハロルドと仲良くなって落ち着いた。ハロルドを抱き込むためにも少しずつ地位を上げていくつもりだが、それを支えるためにも婚姻で縁を結び、高位貴族の後ろ盾を与えるのが得策であると考えた。それもあって彼女は王妃の実家であるルビー侯爵家に養子として入ってから、ハロルドに与えるのが王家にとって都合が良いと判断された。



「それで、婚約解消後のエリザベータ嬢を売り飛ばす算段をつけていたタンザナイト伯爵に金を積んでね。侯爵家と縁組してから君の婚約者、ゆくゆくは妻になってもらうことにしたんだ」


「売り飛ばす」


「わたくしの父は愚かなので」



 気にした様子もなく、さらりとそう言ったエリザベータはハロルドを見つめて「なので、受け入れてもらえなければわたくしは父よりも年上の、評判の悪い男の後妻にならなければならないのです」と悲壮感もなく言ってのけた。エリザベータはもしそんなことになれば相手を始末する気満々だった。



「そんなの、もったいないだろう?それに、ハロルドが受け入れられる女性というのも少ないし」


「お嫌ならば仕方がありませんわ。わたくし、三つも年上ですし」



 年齢はハロルドにとってはそんなに気にすることでもない。むしろ下である方が忌避感がある。

 貴族は大抵、学園を卒業する十八歳前後で結婚をする。それ自体は前世でもそれくらいで結婚する人もいるので構わないと思っている彼だったが、いかんせん前世を持ち越しているので少し考えるものがある。

 前世はともあれ、今のハロルド自身は十三歳だ。あまり年が離れていても相手の女性の方が周囲に何か言われる可能性が高い。そのバランスを考えれば悪くないだろうとすら思える。



(俺個人としてはエリザベータ嬢相手なら気を使わなくて済むしいいんだけど)



 けれどそれがエリザベータの為かと問われると首を捻るしかなかった。



「エリザベータ嬢がよろしいのでしたら是非」



 柔らかく微笑みを浮かべたハロルドがそう返事をすると、全員がホッとしたような顔をした。暴走状態のエリザベータも知っているからこそ断られる可能性も考えていたようだ。

 ハロルドは単純に「王子妃教育に領地運営もあるってルイが言ってたし、教えてもらえそう」なんて思っていた。友人が何か言いそうだけれど、それだけで断る理由にはならない。婚約するのはあくまでハロルドだ。文句を言われる筋合いもないな、とあっさりと受け入れた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


パラケルススは農業というか、自分のやってた研究以外に興味なかったので、自然にハロルドのスキル関連で登録してあるアイテムに肥料やら農業用殺虫剤やら、農業用品の作り方とか載ってない。今登録されているのはハロルドが必死に勉強して作り上げたもの

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