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28.珠

本日2回目



 顔合わせのために王城へとやってきたハロルドは、目の前に広げられた衣類の山に再び頭を抱えたくなっていた。

 ハロルドは特に貴族ではなかったので平民としての服しか所持していない。贔屓の商会などもないため、服は用意するとは聞いていた。

 並べる商品の位置などを指示している少女は案内されてきたハロルドの気配に気づいたのか振り向いて、にっこりと笑みを作った。



「こんにちは!あんたがハロルドさん?」


「あ、はい」


「初めまして、ウチは(たま)っていいます」



 黒い髪に茶色と黒の毛が交じった猫の耳が生えている。柔らかそうな二本の尻尾は三毛になっている。

 彼女が少しだけハロルドの顔を見上げる仕草をすると、りん、と髪飾りについた鈴の音がした。

 エーデルシュタインではエルフはいるが、他種族の人類は珍しい。獣人を見たことがなかったハロルドは「尻尾が二本の獣人もいるのか」と思いながら目の前の珠を見つめた。

 指示を飛ばしていたからには責任者なのだろう。しかし、見た目の年齢的に彼女が責任者だというのにも違和感がある。

 珠はそんなハロルドを気にしない様子でスンスンと臭いを嗅いでいた。



「なんや、怖い女神さんと不養生な医神さんの匂いがすんなぁ?相当気に入られとんの?」



 そんなことを言う珠から、ハロルドは摺り足で距離をとった。すると、くすくすと笑う声が聞こえる。どこからか現れたアンリが「すまない、彼女は種族柄かそういうものに敏感なんだよ」と口に出した。



「お久しぶりです」


「うん、久しぶり。彼女は(あやかし)と呼ばれている種族らしい。彼女たち東和(とうわ)魔族には詳しくないんだけど、その中で猫又(ねこまた)という種族なのだとか」


仙狸(せんり)とも言われとるで」



 ハロルドの脳内に「oh……Japanese YOUKAI!」という言葉が浮かんだ。口に出さなかっただけえらいかもしれない。

 ここにきてまさかの存在に出会って、固まってしまう。



「あ、もしかして魔族と魔物混同しとったりする?ちゃうからな〜?」


「あ、はい。それはもう、その。学園で習ったので」



 この世界において、魔族と魔物は違うものだ。ハロルドの前世において怪物や妖怪と言われてきた者たちも魔族に入っていたりする。外交を結ぶにあたって、意思疎通の取れるものは基本的に魔族という括りに入れられる。逆に意思疎通の取れないものは完全に魔物として狩られる。



「ウチらかて、そないに多い種族ちゃうからな。驚くんも無理ないわ。祖国(くに)でも鬼みたいなんは同族の不祥事もあって差別されがちやしな」



 長い髪をくるくると指に巻きつけて、唇を尖らせた。ハロルドは「鬼もいるんだ」という複雑な気持ちである。こんなところで和なファンタジーに出会うとは思っていなかった。

 珠の祖国はマーレ王国から海を東北に向かって横断した先にあるという。その国を黄金の国と呼んだ人間もいるそうだが、彼女たちの認識としては海の国だ。周囲を海に囲まれた小さな島国で、この大陸では考えられないような食べ物も食べる。話に聞いている限りではそれはまるで日本のようだった。



「まぁ、ウチの話はこれくらいにして楽しいお買い物の時間やで」



 ハロルドに向かってパチンとウィンクをした彼女はるんるんとサイズを測って、それに合わせた衣装を用意しに走る。



「あ、そうだ。叙爵の場ではそのメガネを外しておいて欲しいんだ。その方が多分、普段の生活で見つからずに済みそうだし」


「わかりました」



 夜会の衣装も作る都合もあるし、とその場でメガネを外すと、珠は「この顔に似合う、服……?」と硬直してしまった。



「にゃーご、待って、迷う。待って〜」



 その鳴き声に「猫だ」と妙な感動を覚えたのはハロルドだけだったかもしれない。

 そして、そう言いながらも珠は次々に布を合わせていた。仕事は仕事、頑張る女だった。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


珠ちゃんは可愛い三毛猫の女の子。まねきねこ商会を運営している。

見た目年齢は14〜15くらい。

でも妖怪だから年齢は見た目とは違うよ!

東和魔族とかって呼ばれているのは、「東の果てに大和って国がある」って昔に言った人がいたのでそこからきている。

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