27.なんでこんなことに
試験はエリザベータの助けを得たハロルドたちにとってはそこまで難しいものではなかった。
試験の結果が出るのは春季休暇が明けてからだ。クラス編成の都合もあって、結果が出てから難癖をつける者たちもいるために少し期間は空いてしまうが、そういうシステムになっている。自分よりも成績が良く、爵位の低い者を許せないという人間は年に数人は出てしまう。そんな一部の嫌がらせ行為を防ぐという理由もある。
そういった事情を知らないのでアーロンは「さっさと結果を出して止めを刺してくれ」と頭を抱えていた。
「自己採点では結構良い点数だったんでしょ?」
「そうだけどさ、気分的なものってあるだろ」
ハロルドは「まぁ、確かに気持ちよく休暇を迎えたいよな」と苦笑を漏らした。
そして、そっと溜息を吐く。
彼にとってはそれよりももっと面倒なものがこの先に待ち受けているのだから仕方がない。
初めから貴族の生まれであれば喜ぶ話かもしれないが、ハロルドの望みはただ平穏な暮らしである。それに、爵位を得て突っかかってくる人間もいるかもしれない。貴族としてのマナーも習う必要があるし、土地も下賜される以上はしっかりと治めなくてはいけない。悩みが尽きない。
いきなりハロルドにそういったものを渡すのだから、おそらくは何らかのフォローがあるだろう。それはわかっているものの、他人任せもどうかと思ってしまうあたりハロルドは真面目だった。
(婚約か)
王家ということでアンネリースが思い浮かんだけれど、男爵家に降嫁させることはないだろうと考え直す。聖女の押し付けも考えられるが、それもないかとその考えも頭から追い出した。聖女は今、国が新しく作った宗教の部門で大人しく働いていると聞く。今までフォルツァート教の厄介者たちが力の使い方やこの国のことなど、学ばせていなかったことを教え込むところから始めているようだ。彼女を抱え込んで、能力が成長した暁には旅に出す方針でいくことにしたようだった。それを今、ハロルドに押し付けるという可能性は低いだろう。
貴族には詳しくないので、候補を思い浮かべることも難しい。願わくばまともで、歩み寄りができる女性であれば良いと思う。できれば年上がいい。
同い年の女の子は相変わらず、まだ子供にしか見えなかった。中身の年齢が三十歳を超えているのだ。早々変わるものではない。
「わざわざ夜会に出ないといけないのが、
もう面倒だな」
本来ならば夜会に出るのは貴族でも、学園を卒業した後のことだ。けれど、今回は叙爵の発表のために『特例』として出なくてはならない。
「そういや、婚約者との顔合わせ今日だっけ?」
「そう。何でこんなことに……」
アーロンは「そりゃ、成り行きとはいえ、王太子助ければそんなことにもなるだろ」とツッコミを入れると、「そうなんだけど!」とハロルドは頭を抱えた。
ハロルドにとってみれば貴重な庇護者を失うわけにもいかなかった、という事情もある。
「本当、大それたこと考えたやつらは一人残さずぶん殴ってやりたい」
そんなことを言うハロルドは、すでに王太子に対して毒を用意し、聖女の未熟な魔法に干渉して事件を引き起こした犯人一味が、夜逃げしようとして捕まり、拷問の末、裁判が数日後に行われることは知らない。
国内にある腐敗しきった教会は、ほとんどがハロルドの受けた神託によって解体されることになっている。ハロルドに構う余裕など今の彼らにはなく、助けを求めようにも近づいた瞬間に捕まる。
ハロルドは疲れ切っているが、自分を狙う人間たちの一斉逮捕が起こっている分、実は少し安全度が上がっていた。
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夜にもう1話あげれるかも。