25.行動の結果
エリザベータのおかげで試験対策がほぼ完璧になったハロルドは満足げだ。まさかのお菓子に釣られてくれた彼女に休んでいた間の範囲にプラスして、担当教員の出題傾向なども教えてもらえた。
「ここまで教えても、異母妹は赤点スレッスレのお馬鹿さんなのだけれど、いつも真面目なあなたは覚えがよくて嬉しいわ」
そんなエリザベータの言葉に「これで赤点取る方が難しくないか?」と思ったハロルドだけれど、そもそも覚える気がないエリザベータの異母妹は対策をさせても「めんどくさぁい」と渋々手をつけるだけだった。良い家の人と結婚して家庭に入ってしまえば関係ないのだと思っている。
エリザベータからすればその考え自体が愚かだとしか言いようがない。家格が高ければ高いほど、その夫人は夫の傍で立って微笑んでいるだけでは済まされない。社交界を牽引し、あるいはその中に溶け込み、情報を集め、事業の宣伝をする等、多くの役割を求められる。家によっては夫に何かあった際にはその代役を務めることだってあるだろう。
だから、よほど愚かでない限りは高位の貴族ほどあんな可愛いだけの少女は選ばない。歴史ある、困窮しているわけでもない伯爵家の娘で十四歳にもなればだいたいは婚約者が決まっているはずだというのに、十六になってもなお決まってはいない。異母妹に送られてくる釣書は少ない上に彼女の求める条件ではないのか、文句ばかりを口にしていた。
「というか、エリザベータ嬢からお母さんの遺品を取り上げたり、ドレスを奪ったりしてた割には試験対策手伝わせたりしてるんだ。面の皮が厚いな」
「今となってみればそんなに必要でもありませんが、当時は少々悲しくもありました。まぁ、それでも表情が変わらないのが不気味だったらしく、父にも余計に嫌われてしまいましたが」
そもそも、初めは「緊張して」表情が動かなかったものが時を経るに従って、それが普通のことになっていったエリザベータ。家でも両親の関係は一方的には熱く燃え上がっていたけれど、それから逃げるように片方は家に寄り付かなかった。
あまり会うことがない父親に対して緊張するというのは無理もない話だったかもしれない。
そんな事情を知らないハロルドは普通に「浮気しといて不気味って言うとかゴミだな」と思いながら参考書に目を落とした。彼女の母親が強烈であったらしいのは断片的な情報として知っているけれど、それと娘とどう向き合うかは別の話である。むしろ、その対応次第ではブライトに対しての暴走行動もなかったのではなんて考える。
「そういえば、叙爵されるようですわね。おめでとうございます」
「うん。なんか土地付きらしい。……平民がいきなり土地を治められると思ってんのか、陛下……」
昨日、家に届いた王家の刻印のついた手紙。そこに書かれていたのは今回の功績で男爵位が授けられることと、婚約者を決めてあるということだった。目がまんまるになってしまったのは仕方がない。
どういう手段かは分からないが完全に抱き込む手筈になっているらしい。
「その場にはわたくしもおりますわ。あまり緊張なさらないでね」
「そうだね」
ゆっくりと、長く息を吐き出す。
こんなはずじゃなかった、という気持ちが大きい。
だからと放って置けた話ではなかったし、妖精たちとそれなりに仲が良くなったのは成り行きも大きい。
(まぁ、最悪逃げ込むか)
カラムも「嫌ならここに住めばいい」とハロルドに告げていたりする。妖精たちは自分たちが望む以上のものをくれるハロルドのことを気に入っている。
祖父母が生きているうちは多少頑張っても構わないが、それ以降に頑張れる気はしない。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
妖精たちは(ちょっとだけ)引き抜きを考えている。