24.臨時家庭教師
「一番上のクラスを狙えはする、程度ですわね」
放課後の空き教室でさらっと言われたその言葉に、「一年で追いつくのはさすがに難しいか」とハロルドとアーロンは目を合わせて頷いた。ルートヴィヒは余裕でいけるようだ。一番危ないのはブライトだ。彼自身は「ほどほどで良くない?」と言ったけれど、その瞬間に「別にいいけど、それだと多分ブライトだけクラス別になるよ」とハロルドに返されて勉強量を増やしている。友人が仲良く下のクラスにいてくれるような性格でないのはよく知っていた。
試験が近づくにあたって、ハロルドは少しの間、薬の材料を探す旅に強制連行されていたので不安があった。そのため、声をかけられた通り素直にエリザベータを頼ることにした。学力を見てもらって目標を定めようとしている。ハロルドは意地でも態度が悪い同級生と一緒にいたくなかった。
「魔法学の小テスト、ハルのが点数良いの解せない」
「この範囲、エリザベータ嬢が話してくれてたから」
「あら、よく覚えていましたね。良い子」
表情は相変わらずだが、最近では声に抑揚が付いてきた。自分の好きなものに興味を持ってもらえたことが嬉しいのか、少しだけ弾んだ声になっている。家庭環境を自力で変えたこともあってか、心境に変化が出たのかもしれない。
「それにしても、ハルのメガネの効果受けてないあたり、スゲェよな」
「う……」
「私たちも一瞬歪んで見えるレベルの阻害だ。その影響を全く受けないというのはそれだけ魔力が高いということだろう」
三人がコソコソと話していることに気がついたハロルドは「集中力が切れたのかな?」と思って少し席を離れた。リリィを呼ぶと、彼女はハロルドの用意しようとしているものに気がついて嬉しそうに手伝いを始める。
手を魔法で奇麗にしてから、異空間魔法の中からたくさんのものを取り出した。皿の上に盛り付けられたクッキー、ティーポットとカップ、茶葉。ドライフルーツを混ぜ込んであるクッキーは、リリィの好きなものの一つである。
小さなカップには牛乳を入れると、同じく小さなお盆のようなものを抱えてルンルンで戻っていく。
「少し休憩にしようか?」
机にそれらを置くと、視線がハロルドへと集まった。
「昨日焼いてたやつ?」
「そう。みんな集中が切れてるみたいだし」
お茶の準備をしながらそう言うハロルドを見ながら、エリザベータは「何だか少しズレているような……」とは思ったけれど、すぐに気を取り直した。彼女は割と切り替えが早かった。
相手がハロルドなので何か入れられているなんて全く考えずにクッキーに手をつける。気に入ったのか、その目が少し輝いた気がして、「口に合ったならよかった」とハロルドはエリザベータに微笑んだ。
「ねぇ、表情変わった?」
「私にはわからない」
「そうか?ちょっと嬉しそうじゃねぇか?」
ブライトとルートヴィヒがアーロンを信じられないと言うような目で見つめる。
それを気にせずにアーロンはクッキーを口に入れる。買い物が気楽になったのか、以前よりも少し凝ったものを作っている気がする。
「ハル、ハル!これ美味しい!!今度はふわふわしたやつも食べたぁ〜い!!」
「ふわふわ?また今度ね」
いつもよりテンション高めなリリィを宥めて、出された課題に取り組む。少し詰まると、エリザベータがそのヒントとなる教科書のページを開く。
「ところでハロルド」
「何?」
「わたくしもふわふわ、というものが気になるわ」
あまり口にすることがなかった甘いものに、彼女はまんまと釣られるようになった。
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エリザベータ「甘いものを出されてもあまり興味はありませんでしたが、食べてみると美味しいものですわね。異母妹が好むのも頷けますわ」