23.認識阻害メガネ
精霊樹の枝、ゴーレムの核、魔力が込められたサファイア、レンズ、そして人を惑わす妖精の鱗粉。
それを加工して、一個のメガネが出来上がった。
見た目はなんて事のない普通のものだけれど、かけて鏡を見るとその効果は一目瞭然だった。
鏡の中のハロルドはどこにでも居そうな普通の少年だ。どこか前世の自分の姿が混ざっているようなその姿にホッとする。
この姿であれば執拗に追いかけられることもないだろう。外に出て多くの視線を集めることもない。
「ハル、それ本当にいるの?」
「いつもの方が良い」
「せっかく綺麗なお顔なのにぃ〜」
三人の妖精はむくれているけれど、ハロルドの今までの人生は今まで何もなかったことが奇跡のようなものだった。常に誰かに見られている生活を受け入れられるほど神経も太くない。
「でも、これでようやく外出がしやすくなるよ。顔に傷を入れるなんて考えなくても良いだろうし」
そんな言葉に彼女たちは顔を見合わせて頷いた。
「確かにウザかったもんね」
「綺麗なハル、ボクたちが独占」
「や〜ん!独占、良い響き〜」
若干不穏な言葉が聞こえたけれど、自分に害がないならいいと判断してアーロンに声をかけにいった。友人に判別してもらえなければ困る。
「臭いが変わらないからおれは問題ない」
「まぁ、印象が変わるだけだしな」
スノウのおかげで感覚が強化されていることもあり、ハロルドだとわからないということがなさそうでホッとする。
これでもっと気楽に出歩けるとホクホク顔のハロルドを見ながら「よかったな」と告げると「うん!」とテンション高く返事がきた。
「知らない相手には印象が薄ぼんやりにしか残らない機能もあるらしくってさ。最高。俺もうこれなしじゃ生きていけない。宝石が比較的安い国に生まれてよかった」
「まぁ、特産物だしな」
青いサファイアを選んだ理由はそれが神の加護と相性がいいからだった。おかげでメガネの効果が爆上がりしている。
試しにと外を出歩いても、いつものようにジロジロと見られたり、顔を二度見されたりということがなかった。
「悩みが!!減った!!」
それだけで喜ぶ友人がいっそ哀れである。
ハロルドはこれからはもっと色んなところに行けると喜んでいるけれど、人外にやたらと好かれている彼の処遇をめぐっては国のトップがお話し合いをしている最中である。
今まで値踏みするような目で猫撫で声で接客されていたことで行きにくかった店でも買い物ができて浮かれ、はしゃいでいる彼は、そんなことをすっかり忘れつつあった。
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