5.入学
二人は王都で小金を稼ぎながら、入学の日を迎えた。貴族や裕福な家の出の子息は試験でクラスが決まっているが、通常の平民は試験なしで一律でFクラスである。
学園はスキルや魔力の強い人間を貴賤問わず集める教育の場だ。そうとはいっても、貴族の方が高い魔力を持つことが多いため割合を多く占めるのは貴族である。
一番上はAから、下はFまで能力別のクラス分けになっている。1年から6年までの期間で学問を修めることになり、習熟度次第では飛び級の制度もある。
1年次に裕福ではない平民が一律で一番下のクラスに入れられるのは、多くの場合に教育の機会に恵まれていないため、最初から一緒に教育を施してもうまくいかないことが多いからだ。
翌年、2年からは完全に実力で振り分けられるけれど、それはこの一年の総合成績で決まる。ある程度の成績があれば進級はできるけれど、あまりにも成績が悪い場合は留年もある。
ちなみに、1年から最終学年の6年までの六年分の学費は出るが留年分は自腹だ。そして、卒業できなかった場合は危険人物として日常生活に使うであろう魔力を残して封印される。だから貴族はどんな手を使っても、何年かかっても卒業させる。ここを卒業できない子になど使い道がないからだ。卒業できなかった子息になど政略の駒としてすら価値はないとされる。
襟元と袖口に白いラインの入った紺色のジャケットに同色のスラックス、赤いリボンタイ。ブレザーの胸元には薔薇と星を模した校章が縫い付けられており、襟元にはFクラスを示すブロンズのバッジがついている。
クラスを示すバッジはAとBがゴールド、CとDがシルバー、EとFがブロンズとなっており、その中で生徒会に選ばれるとバッジがプラチナに変わる。
「……うっわ」
アーロンはハロルドを見てそう言うと、にっこりと微笑みを向けられた。
「何か?」
どこか威圧感を感じる返答に「めちゃくちゃイケメン」と返してにへらと笑った。
寮の部屋から出ると、ワクワクした様子で学園生活を語る者もいるし、不安そうに俯く者もいた。
寮に入るにあたって、規定額を納めれば希望する食事を用意してもらえる。二人は朝晩の食事代を納めていた。同じようにしている者も多いようで食堂は賑わいを見せている。
「帰りは直接行く?」
「いや、一回戻ってきた方がいいよ」
友人からの狩りの誘いにハロルドは静かにそう返した。
学園の仕組みなんて、学園に通う機会のなかった人間には知りようのない話である。制服のまま歩き回れば「金持ちの子息」だと勘違いされて攫われたり、襲われたりする可能性は十分考えられた。
「自己責任による破損だと新しい制服も配られないしね」
制服は高い。
貴族も着るようなものであるからか良い生地を使用しており、冒険者活動中にうっかり破いてしまったものなら大惨事だ。当然、ハロルドにもアーロンにも簡単にポンと支払えるような金額ではない。
「やっぱり面倒でもそうするべきだよな」
ウィンナーをフォークで刺しながら唇を尖らせる友人に「そうだね」と言いながら苦笑した。
余裕を持って学園の教室に辿り着くと、教科書を机に配っている最中だった。二人は顔を見合わせると、職員に申し出てそれを手伝った。
妙な騒ぎになったことがあるらしく、学園長やら生徒会の挨拶などは全て伝達魔法にて行われた。「平民と一緒とか絶対嫌だ」とか言う貴族がトラブルを起こした例と、「学園内では平等のはず!」という平民や庶子がトラブルを起こした例があるらしい。「新入生の皆さんはそういう余計なことをしないと我々は信じています」という学園長のお言葉は紛れもなく「やったらどうなってるか分かってんだろうな」をオブラートで包んだ言葉だろう。
問題児というのは毎年入ってくるものだ。教員の方もだいぶ神経を尖らせていた。
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