22.迫る学年末試験
「おはようございます、ブライト様!!」
「ひ……っ!……ん?おお、飛びかかってこない」
「ねえ……じゃなかった。エリザベータ嬢、何をしてたんですか」
「籠絡するために色々と」
本当にぶっ飛んだことをやっていたんだろうな、と思いながらも楽しそうなエリザベータに呆れつつもジト目で見て、「適切な距離を保って、他の方々に危険なことはしないようにしてくださいね」と伝える。うっかり「姉さん」と呼びそうになってしまう程度には旅の間に、彼女に慣れてしまっていた。
「しばらく見ない間に、ハルがまた問題児の手綱を握ってる……」
アーロンはその光景を見て頭が痛いとでも言うように額に手を当てて首を振った。
「え、ハロルドくんそんなに問題児拾ってるの?」
「第一号が何か言ってやがる」
ちなみにアーロンの中の問題児第一号はブライト、二号がルートヴィヒ、三〜五号が妖精三人組である。ハロルドに言えば「一番はまず間違いなくロナルドだよ。いや、問題を起こす人物っていう枠組みなら母さん?」なんて言ったかもしれない。
「えー!?そんなことないよー!?……あ。た、確かにはじめは、アレだったけどぉ」
アーロンの目は「それだけか?」と如実に語っている。
ハロルドが短期間でエリザベータとそれなりに仲良くなっていることもあって「おまえ、本当にどうにもならなかったのか?」という気持ちがあった。あと、少しブライトやルートヴィヒにも思うところもある。
実情はどうあれ、平穏を望んでいるだけの友人を巻き込むのは腹立たしかった。
(ハルも人が良すぎるんじゃ……いや、アイツは俺たちが巻き込まれる方が嫌だ、つって手心ってもんを手放しつつあるしそこまで追い込んできやがる連中が悪いな)
はじめは少しくらいあったかもしれない「付けいる隙」もなくなってきている。アーロンとしては、他者に対して礼儀正しく穏和に見えていたはずの彼が外では笑みすらなかなか見せることができなくなってきた現状を心配する気持ちも大きい。
それももう少しで終わるとハロルドはいうけれど。
帰宅したら度のないレンズを買うと息巻いていたハロルド。「認識阻害のアイテムが作れる、材料……材料さえ、レンズさえ買えればこっちのもの」と話す友人は哀れだった。彼だって何も好きで綺麗な顔に生まれたわけではない。
(普通はレンズよりもおまえがサラッと集めてきた“妖精の鱗粉”の方が価値が高いんだけど)
今朝から通っている砂の国の妖精にも気に入られたハロルドは袋に必要な分だけの鱗粉をもらってきていた。
「ところでハロルド。あなた、試験が近いけれど大丈夫なの?あなたは絶対に上位のクラスになった方がいいわよ。素行が悪いのに絡まれたくはないでしょう?」
「今日帰ってからの作業が終わったら、本気で取り組むよ。……そんなに違う?」
「ええ、頭の良いバカもいるけれど、基本的に成績が良い方は素行にもあまり問題はないわ」
アーロンたちが話したりしている中、ハロルドとエリザベータの話題は試験と次年度のクラス替えについてのものになっていた。
魔法学に関してはエリザベータの話が講義の代わりになっていたのであまり問題はなかったが、歴史やら文学、魔物学などそれ以外の教科はあまり追えていない。幸いと言っていいのか、学年主任が冬季休暇で特別課題をハロルドたちに出していたからそこまで遅れていたわけではないけれど、不安はある。
「何かあれば相談なさい。知らぬ仲でもありませんし、わたくし、成績は一番上から落ちたことがありませんの」
才能の塊である少女はそう言って、自分の学年の校舎へと向かっていった。
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