21.帰宅と悩み事
「た、ただいまー」
「遅かったな、ハル」
家に帰るといつも通り出迎えてくれたアーロンにホッとする。その姿を見れば数日離れただけのはずなのに記憶にあるより背が高くなった気がする。
「アーロン、背、伸びた?」
「言うに事欠いて、はじめに言うのがそれかよ」
呆れた声でそう言って「別にそうでもねぇだろ」と返してハロルドの額に割と強烈なデコピンをかました。あまりの痛さにうずくまるハロルドにスノウは「そんくらいで済んでよかったな」と笑った。
「つーか、例の神とかいうの一発殴ってやろうと思ってたのに来てないんだな」
「無理して働いてフォルテ様の説教が怖いからってさっさと帰った」
「何やってんの?医者の不養生ってやつ?」
医神アルスに割と強制的に連れて行かれたことを知ったアーロンは「ハロルドに」というよりは「神に」怒っている様子だった。ハロルドが進んで巻き込まれたいと思っているわけがないと知っている。
「そういえば、あの騒がしい三匹いねーの?」
「数え方」
スノウが頭の後ろで両腕を組んで「そんなんどーでもいいだろ」と不貞腐れたように唇を尖らせた。
「ローズさんたちはアルス様に壊された門を編み直しています」
「えげつないことをする。あの魔法は、すごく面倒なんだ」
同じ妖精であるから分かることなのだろう。ルクスとルアは彼女たちを思ってアルスを非難する。神にとっては簡単に見えても、ハロルドに甘やかされて魔力を増やしていても、面倒なものは面倒なのだ。きちんとした手順と繊細な三人の魔力量の均衡、幾つかの材料。それらを織りあげて門を作る。
「ハル、ところでまた面倒増えてないだろうな」
その言葉に少しぎくりとするとジト目で「全部話せ」と言われたのでハロルドは観念した。彼の背後からする夜ご飯の良い香りに負けたともいう。
話を聞いたアーロンは「妖精にまた目ぇつけられてやがる」と嫌な顔をした。友人を守る盾になるローズたちはまだ良いとしても、砂の妖精とやらはハロルドを利用する気満々だ。
「ハル、おまえそんな気軽に妖精の話に乗ってたらそのうち帰って来れなくなるぞ」
「ああ、それはフォルテ様がなんとかするだろうから無いかなって」
現在のハロルドにとっては人間の方がよほど面倒だったりする。
彼を引き留めているのは目の前にいる友人や祖父母の存在だ。彼らがいなければ妖精の住む異界へ自ら旅立っていた可能性だってある。そして、そこまでハロルドを追い込んだ段階でそれこそ豊穣が消えた国にでもなっていただろう。
「それにしても、貴族にでもさせられんの?」
「それはわからない。でも、アンリ殿下は“それだけ人外に好かれて普通に平民のまま暮らすのは難しい”って言ってた」
「貴族だって爵位次第で面倒になりそうなもんだけど」
「俺もそう思う。後見人に王家が立つのかな」
二人はそこまで貴族に詳しくはない。けれど、学園に通っていれば高位の貴族子息に阿るそれより低位の貴族子弟がいることもある程度知ることになる。
どこか高位貴族の養子に、というのもなかなか選定が難しい話だ。
悩み事が尽きないハロルドだった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ハロルドにもやっぱりちょっと怒ってる(心配だった)ので、夕食に出た肉がいつもより小さかった。




