20.浅はかな者たち
アンリが復活し、薬の不味さにまだ気分を悪くしながらもハロルドたちにお礼を言っていた頃。
息子の無事と医神アルスの神託を聞いたこの国の王、リチャード・ダイヤ・エーデルシュタインは少しだけ目をその手のひらで覆った。
(ハロルド、お前それだけ人外ホイホイで平穏な平民生活は無理だって)
息子の無事にホッとしながらもそんなことを考える王に、近衛は「いかがいたしましょうか?」と問いかける。
「そうだな。ハロルドとタンザナイト嬢には後日褒美を取らせる。一先ずは帰宅の許可を出しておけ」
とりあえずは目の前の連中を裁かないといけない、とリチャードは宰相に躙り寄る貴族たちを見下ろした。
神に愛された少年の謙虚さの一欠片でも彼らにあれば、こんな事態になっていない。
どこからかアンリが倒れたことを聞きつけた者たちが、「次の王太子」だの「伯爵家の娘では王妃には」などと押しかけてきていた。
追い払ってもしつこく謁見願いを出してきた彼らには嫌気がさす。
「アンリは無事だ。お前たちの懸念は空振りである。王太子妃の選定は現在進めているところである。決まっていない、その意味がわからないというのであれば、貴族位を返上した方がよかろうな?」
気怠げに頬杖をついて放たれた言葉に、騒いでいた者たちはぴたりと止まった。
「我々は確かな筋から話を聞いているのですよ?隠せるとは思わないことですね」
「そうか」
得意気にニヤニヤと嗤う男は、王の目に剣呑な光が宿ったことになど気が付かない。
「捕らえよ」
侯爵家の当主であったその男はその言葉を合図に近衛に剣を向けられる。驚き、目を見開いた男はそこでようやく、王妃の凍るような視線に気がついた。
「まぁ。王家の細かな内情を知る者がいるなんて」
「どこぞの犯罪者と繋がっていないとも、なぁ?」
前の王が愚かであったからとリチャードを侮る者も多かった。これでも賢者のいた時代よりはだいぶマシになったのだ。
周囲にいるのは敵ばかり、賢者を通して介入してくる教会。いくらリチャードが駆けずり回っても足りなかった。
(それを考えれば、今“神”の威光を振り翳すのが自分になるっつーのは皮肉だな)
内心ではどう思おうと、その表情にも言葉にも翳りはない。ただ、目の前の獲物を食い殺すかのような瞳が浅はかなる者たちを射抜く。
「さて、言いたいことがあるのならば聞いてやろう。だが、結果としてそれが犯罪の自供にならねば良いがな?」
——よく考えろよ?
低く響く、どこか嗜虐的で、だからこそであるのか耳に響く声に、彼らは圧倒されていた。
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