19.王太子復活
王太子の部屋へと案内された三人が部屋の扉を開けてもらった瞬間、酷くえずくような音が聞こえた。
「吐くな。全て飲め」
アルスが無理やり口を閉じさせている。「お前これを飲み切らないと死ぬぞ。まぁ……この薬、文字通り死にたくなるくらい不味いんだが」と言っているので、必要なことではあるんだろう。
目が覚めてホッとするやら、目の前の状態にゾッとするやらでルートヴィヒの顔は青い。
やがて飲ませ切ると、大量の水が側に置かれた。「飲んでも飲んでも口の中から薬が消えない」という吐き気を我慢している王太子アンリに、アルスはちょっと満足そうだ。心なしか表情がキラキラしている。
「うん、今日も患者を救った」
確かに救ってはいる。
そして、近くにいる聖女も倒れていてルクスは「一応魔力障害になる前には止めてましたけど、ギリギリまで搾り取ってます」とドヤ顔をしていた。ルアは「アーロンが静かに怒っていた」と報告をしてハロルドを諦めの境地へと追いやった。
(神様案件とはいえ、伝言だけで旅に出たらそりゃあな)
ハロルドのせいではない。
目の前に一応いる聖女とフォルツァートの教会の信者たちのせいだ。
「これで、医療の進歩は阻害されないし、アンリの進めさせていたらしい研究結果も世に出る。万々歳だ」
「……アルス神よ、あなたはどこまでご存知で」
「僕は自分の権能内のことしかわからないよ。そうだね、医学、薬学、治癒魔法あたりが絡むことには割と介入する。こっそりとどこぞの学校に紛れ込むこともあるし」
「何やってんだ、この神」
ハロルドの率直な感想に、王国側の衛兵などは顔を真っ青にするけれど、アルスは気にした様子もなく、「近年の考え方を知るために手っ取り早いんだよね」としれっと宣った。
「君らにとって数年は貴重でも、僕たちにとっては瞬きの間だ」
穏やかにそう言う彼だけれど、その根底にあるのは寂しさだったかもしれない。
「そうだ。ハロルド、お前はそれなりに立場を得た方が良いと思うぞ。研究にも権力があると手っ取り早い時がある」
「いや、俺は特にそんなつもりじゃ……」
「どうせあれこれ巻き込まれる質だろう?少しでも平穏に暮らしたいなら平民のままでは困難だ。諦めるが良い」
自覚はあるのか言葉に詰まるハロルドから目を離して、彼はアンリを見た。
「とりあえず、神罰まではいかずとも呪いは今回の事件の犯人共に降りかかるようにしておく。僕の祟りが恐ろしいとでも言ってさっさと腐った宗教家を排除してしまえ。新しくまともな人間を集めて教会は束ねろ。フォルツァートは馬鹿だしこれっぽっちも人を見る目はないが、一応人間を愛してはいる。変に取り潰して恨みを買うよりは、適当に祀っておいた方が後腐れがないだろう」
「はっ」
これで伝えることは終わったとばかりにパチンと指を鳴らすと、神様らしい姿へと戻った。
「僕はもう帰るよ。フォルテ様から怒られるのは確定しているから億劫だけど」
魔法陣が現れると「まだ全快じゃないのに無理したからなぁ」と呑気な声を残して彼は消えていった。
「神の割にすごい親しみやすかったね」
「そうだな」
ハロルドは静かに息を吐いて聖女を見つめた。話した感じでは特に横暴な感じはしなかった。魅了を封じて国に管理させ、ロナルドが成長して勇者として旅立つ時が来たら彼女も一緒に放り出すのが正解だろうか。
(アイツ、俺と違って英雄願望有りそうだし、なんとかヨイショしたら乗せられるような気はするんだよな)
勉学には力を入れていないようだったが、武芸と女遊びには一生懸命だ。いっそのこと、うまいこと彼を操れる女の子でもいればまともになるかもしれない。ただ、あんな事故物件をすすめるのも気が引ける。
何にしても、聖女だけでも確保していれば人材が揃った暁には世界の災害ともいえる魔王という現象を倒すこともできるだろう。少なくとも可能性はある。巻き込まれたくはないな、と思いながらそっとその視線を外した。
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