18.それは人選ミス
三人は魔法陣が光と共に弾けると、王城の庭にいた。ローズたち三妖精は「アタシたちの扉ぁ!?」、「魔法、織り直し……!?ウソ」、「神様キラァイ!!」と泣きそうな声で項垂れている。
「可哀想ではありませんの?」
「ハロルドが甘やかしているから力を溜め込んでいるはずだよ。面倒な術式ではあるけれど能力的に苦ではないはずだ」
さらっとそんなことを言ったアルスを三妖精はキッと睨んで「嫌い」、「嫌い」、「キライ」と殺意を漲らせている。
そして、「甘やかしている」だなんて評されたハロルドは複雑そうな顔をしている。
派手に帰ってきたためか、久しぶりに衛兵に囲まれる事態になって「取次をお願いしても?」と一歩前に出たハロルドが言うと、彼を知っている衛兵たちは青褪めた顔で「かしこまりましたぁ!!」と言い、そのうちの一人が走って行った。
「では、薬の調合をしようか。患者のところへ」
「ハロルドくん、だぁれ?その人」
「ブライト様」
「うげ!?」
「はい、姉さん待て。こっちは医神アルス様。王太子殿下のところに連れて行って」
「そっちはそこの王子に頼むよ。エリザはハロルドと一緒にゆっくりと来るといい」
ハロルドたちの慣れた様子に首を捻りながらも、ブライトはアルスの言葉に嫌な顔をしていた。追いかけられる日々がよほど辛かったらしい。
「ブライト様、申し訳ございませんでした」
「……え?」
「わたくし、対応を誤っていたようです」
淡々とそう伝えて頭を下げた。それに「べ、別に、もう危険な真似しないならいいよ」と返してブライトは助けを求めるようにハロルドを見た。
「思えば、お母様は失敗したから何度も愛人を作られたというのに、お母様の方が苛烈だったとはいえ似たような行動をしてはいけませんでした」
「ねぇ、姉さんのお母様ヤバくない?」
ハロルドの思わずといった言葉に「貴族たるもの舐められれば終わりですし、仕方がありませんわ」と愛人の始末まで匂わせてきた。それには事実も含まれているので言葉を噤む。
「まぁ、あんな男になぜ入れ込んでいたのかわたくしにはわかりませんけど」
「浮気してるんだもんなぁ」
二人の和やかなのか不穏なのかわからない会話にブライトは顔を引き攣らせている。それでも「うちの両親も碌でもないけどさぁ」とボヤくあたり、少しは歩み寄りが感じられる。
「わたくし、それなりに家族に憧れもあるのですが」
「それ完全に人選間違えてるよ。僕そういうの興味ないもん」
ブライトの言葉に不思議そうに首を傾げるエリザベータ。彼女がハロルドの顔を見ると、「ブライトは両親に殺されかけて、しかも助けてくれる人居なかったから」とさらっと言われて言葉を失っていた。
「今も暗殺者向けられてる?」
「うん。王城にまで差し向けて来たからルイがキレて家が没落しそう」
「頭湧いてるの?」
「妹の調査結果は悪くないんだけど、このまま行くとなぁ……」
不穏度が上がった会話に、「それは家族という存在に希望が持てなくて当然かもしれない」とエリザベータは思った。そして、伯爵家がまた一つ潰れそうになっていることに少し眩暈がする。
「我が家もさっさと弟に爵位を継がせた方がいいのでしょうね」
エリザベータの家も異母弟はあの両親の血を継いでいるとは思えない程度には優秀だ。義母や異母妹をなんとかまともにしようとしているあたりは若干「そろそろ無理だと切り捨てた方がよくってよ」と思ってはいるが。
第二王子との縁談もおそらくもう破談となるだろう。
(冒険者にでもなろうかしら。たくさん魔法をぶちかませそうですし)
そんなことを思いながら、彼女はようやくアルスの向かった部屋へと歩を進めだしたハロルドたちのあとをついて行った。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!!
誰も心を読めないのでお嬢様、家事できないというツッコミが入らない。




