17.妖精の扉の不正利用
とりあえず、収拾がつかなくなったのでエリザベータが簡単に今回のことを説明すると「どうしてそんな嘘を?」と呆れたようにアイマンが問いかけた。
「こっそり来て、こっそり帰りたかったから。誘拐なんかに間違われると大変だし」
「ハロルドだけは無事に返さないと国際問題になってしまうので、秘密にするというのはある意味で安全に旅をするために必要だとアルス様が」
「神とその寵児だもんな……」
頭が痛いという顔をしている。ハロルドは胃も痛い。知らない間に加護は増えているし、妖精王というか妖精のある種族のお気に入りになっているらしいし、ハロルド自身把握していないことが非常に多かった。
(帰ってもクソ面倒なことばっかりなんだよな)
アンリの命は助けてあげたいと考えているので、帰還はするけれど、聖女のその後の取り扱いだとか、腐れ教会の事とかを考えると頭が痛い。
あと、ハロルドの隣にいる美少女は、彼の友人を視界に入れた瞬間豹変するし、ハロルドにはあることについて確信があった。
(アーロンが、怒ってる気がする)
薬草を抱えて今は少し満足げな医神に、ほぼ連れ去られる形で国を出た。一応説明はルートヴィヒたちにぶん投げてきたけれど、挨拶もなしに飛び出したのだ。説教も甘んじて受ける覚悟は必要だろう。
胃をさすりながら溜息を吐いているハロルドを見ながら、エリザベータは「やっぱり面白い子ね」なんて思っていた。
彼は妖精と共に戦う特殊な魔法の使い手だ。それだけでも興味深いというのに、中身はどちらかといえば凡庸だ。力を得てなお、普通で居続けることは酷く難しい。
(妖精を意思を持った一個人と考えているから、それに与えられた力が自分のものだという自覚が薄いのもあるでしょうけど)
それに、ハロルドはエリザベータが暴走しているところを見ているはずなのに、「それはそれ、これはこれ」とばかりに彼女が近くにいることを許した。
他者に対してそれなりに寛容で、エリザベータのわずかに動く感情を読み取って接してくれるハロルドを彼女は気に入ってしまった。
まさか「ブライトいないし、話してる限りではハンベルジャイト伯爵令嬢より全然マシ。比べるのも烏滸がましいレベル」だなんて思われているとは知らない。
「そんなわけで、患者が待ってるし僕らは帰るね」
「……ハロルド。神ってこんなに自然に人間と生きるものなのか?そっちの国ではそうなのか?」
「いえ、アルス様が特別です」
「そうよ!フォルテ様は基本的に天界を走り回ってるし」
「あの女神、間が悪い」
なぜか「だからフォルツァート様に負けんのよ」という心の声が聞こえるようだ。リリィはローズに口を塞がれていた。「これは確実に言おうとしたな」とハロルドが苦笑する。
「それで、帰りも雇ってくれるのか?」
「いや、帰りは大丈夫だ。簡易だがここから門を繋いで妖精の扉に繋ぐ」
「ハァ!?あんたみたいなのに使われたらウチらの編んだ魔法がめちゃくちゃに……」
「じゃあ、行くぞ」
リリィの抗議なんて全く聞かない、我が道を進む神は非情にもそう告げて、この国との境まで来た時と同じようにその力を展開する。赤とオレンジの花の紋様が現れ、周囲にアルスの力が満ちる。
「ではな、お前とは縁がありそうだ。また会おう」
「もぉヤダぁ!!何この自分勝手なヤツぅ!!」
リリィの悲鳴をBGMに彼らは転移させられた。
唖然としているアイマンのすぐ前に袋が落ちてくる。それを受け止めるとメモが入っていた。
——帰り賃と迷惑代だ。
アルス
「めちゃくちゃだな、神」
中に入っている金貨を確認して、それをマジックバッグへしまう。
「この国にいると、義姉上たちに巻き込まれかねないし、これ以上の迷惑は勘弁だしな。俺もほとぼりがさめるまでエーデルシュタインに行くか」
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