16.砂の妖精と理想郷
アルスが空間を裂いたような空間に手を翳すと、四人は吸い込まれるようにそこへ入ることになった。
雨林異界ダンジョンだなんてアルスが言うから警戒していたハロルドだったが、そこにあったのは雨林ではなく、美しく、実り多きオアシスだった。
ふわふわと浮かぶ光は妖精の魔法だろう。ハロルドはそのうちの一つに手を伸ばした。
「見えるのか!?」
するとそれが弾けて、褐色の肌に赤い髪の妖精が現れた。酷く驚いた少年姿の妖精は、そのままピュンッと飛んでいってしまった。
アイマンはそれを見てポカンとしている。
「驚かせちゃったみたいだな」
「やっぱりハロルドがいると入れるんだな」
少しばかりの罪悪感を覚えながら先ほどの妖精が飛んでいった方向を見ていると、アルスがどこか弾んだ声でそう言いながら、サボテンのような植物の前で赤い花を摘んでいた。
「これが天上花だ。砂の妖精たちが隠してしまってなかなか見つからないのだが、あってよかった」
「あってよかったじゃねぇよ!!お前とかお前の信者が乱獲して希少になっちまったから保護してんだよクソ神!!」
褐色の肌に短い銀の髪。頭に巻いた赤いターバンがよく似合っている。アルスを指差して怒鳴る少年の赤い瞳には非難の色がみえた。
「あんたのせいじゃないか」
「失礼な。薬学の発展に必要だったんだ」
「結果的にそれがなくなったら薬が作れないなら、その行動はダメでしょ」
アルスに説教をするハロルドを見ながら、エリザベータは「威厳がありませんわねぇ」と呟いた。その隣でローズたちも頷いている。
「何で入って来れたんだと思ったら、花の女王のお気に入りかよ。輝石の国に移住したって聞いてるが息災か?」
「王様、元気」
「ほーん、顔出せつっといて」
14、5歳に見える少年はそう言って視線をハロルドへと戻した。
「おい、ティターニアの贔屓」
「ひいき」
「天上花、お前が必要な分はやっても良い」
少年は目を合わせてニッとどこか悪どく見える笑みを作った。「ただし」という言葉を続けた彼はハロルドが条件を聞いたり、それを了承する前に彼に魔法をかけた。
その魔法の輝きは、鱗粉のように舞って、ハロルドの手首へと向かう。そして、光が弾けるとゴールドのブレスレットが装着されていた。オアシスの水を思わせる水色の石が美しい。
「代わりにお前が毎日ここにきて増やせ。うちのヤツらは大体外になんか出ねぇけどよ、たまーに好奇心旺盛なヤツが旅をする。……知ってるぞ、お前のスキル」
その言葉を受けてブレスレットを鑑定する。
——ジャンナガーデンの鍵
これさえあれば、ジャンナガーデンにいつでもどこでもひとっ飛び!
非売品、一点もの。
妖精たちの厚意と信頼を得た人間にしか使うことができないので要注意。
(誰だ、この説明文考えたの。フォルテ様か?……そんな気がしてきたな)
それでも、いつでも行けるならいいかと頷いて「わかった」と言うと、腰に手を当てて「物分かりがいいヤツは嫌いじゃない」と尊大に言った。
「俺様は砂の妖精の王、カラム。覚えておくといい」
フン、と鼻で笑って彼が手を振ると四人は元いた場所に帰っていた。
アイマンは「この国の妖精なんて、ここ数百年発見例がない、伝説の」と目を大きく見開いてブツブツと呟いている。
「妖精は花の国を除けばどこにでもいるんだから驚かなくたっていいのに」
「驚くに決まっているだろう!?というか、君、神って言われてなかったか!?」
「忘れろ」
言い合いを始めた神と冒険者を見ながらハロルドとエリザベータは「(王太子の件は内緒として)薬の材料を探しにきた件、普通に説明した方がいいんじゃない?」「わたくしもそう思うわ」と言いながらカラムが追加でくれた天上花を丁寧にしまい、帰る準備を始めていた。
もうめちゃくちゃである。
いつも読んで頂き、ありがとうございます!!
天上花はあんまり手に入らなくしても困るだろうからと妖精たちの善意で雨林ダンジョンに時たまおいてある宝箱の中とかに稀に入ってる。
説明文に関してはフォルテ冤罪であったりする。




