14.旅路5
夜が明けると、アルスが背伸びをしながらテントから出てきた。肩を回すとゴキゴキ、と人体から出ていいのかと言いそうになる音を発している。
「どんな寝方をしたらそうなるんだ」
「知りたい?」
「絶対知りたくない」
アイマンは思い切り嫌な顔でそう言って、魔馬の方へと向かって行った。
アルスはアルスで、「まぁ、今の人間の研究資料を読んでてそのまま寝落ちしただけなんだけどね」と肩をすくめるだけだった。
「このペースでいけば、今日中に行程の半分くらいまでは行けるかしら」
「早いに越したことはないよね」
地図を見ながら話し合うハロルドとエリザベータ。フードの中、ハロルドの頭の上でリリィはすやすやと寝息を立てている。
ポケットの中ではローズも同じように寝ており、ネモフィラだけが起きていた。交代制で休んでいる。手持ち無沙汰だからと作った妖精たち用の寝袋は昼用と夜用で温度が変わるものが用意されている。
「愚か者も十分吊し上げられたようだし、昨日よりは減るでしょう」
「姉さんも気をつけてね」
「ええ。あなたもね」
顔をまともに見せない二人組は怪しいかもしれないが、彼らも自分たちが目立つことを自覚しているのでできるだけおとなしくしている。
何かあると主張しているようなものなのだから、近づく方が悪い。
(本当は認識阻害のメガネを作ろうと思ってたんだけど、ちょっと材料が足りなかったんだよな)
それなりに高度な魔道具にあたるらしく、必要な材料もまた少し手に入りにくい物だった。もう少し気軽に歩けるようになりたいと願うハロルドにとっては急ぎで欲しい物だ。旅の間の危険度が下がるに越したことはない。
そこからはまた魔馬に乗って砂の上を駆ける。その時間は止まっている時よりは安全といえる。魔物が現れても容赦なくエリザベータが倒していくし、魔馬に追いつける者なんて同じような移動手段を持つ者に限られる。
「姉さんの魔法、少し派手じゃない?」
「大きな魔法を撃つときの方がすっきりするの。……残念だわ、せっかくこんなに砂以外何もない場所にいるのに、魔力残量を気にして大魔法を撃てないなんて!」
とても悲痛な叫びだった。
エリザベータは派手で大きな魔法が大好きだった。それなりの魔力量を持つ彼女だが、神やら庇護すべき年下の少年を守るためにはペース配分が肝要なこともわかっているので我慢している。
(ハロルドに何かあっては、国が危ないですし)
そうでなくとも、ハロルドはなぜかエリザベータがそう大きくはなくても揺らした感情に気がついて、それなりに普通の女の子として扱ってくれる。ある意味得難い少年だった。しかも、大きな打算もない。むしろ「巻き込んじゃって申し訳ないな」と思っている。
多くの令嬢に囲まれ、異母妹を虐めるなだの、第二王子ジョシュアを解放しろと言われた時に助けてくれる人間はジョシュア以外にはいなかった。家の中では異母弟はエリザベータを気にかけてくれるようだったが、同時に恐れられてもおり、自分だけが異分子であると彼女は知っていた。
母はエリザベータを愛してくれていたけれど、きっとそれは「父」の「娘」であったから。母はエリザベータよりも彼女の父を愛していた。少なくとも、彼女の見る限りでは。
だから、特に何も益を求めず、ただ善意だけで自分を助けてくれたブライトがひどく眩しく映った。
けれど、離れてみて少し冷静になればこのままでいいのだろうかと思わなくもない。
「これで満足じゃないのか……。まぁ、大きい魔法はちょっとした夢があるしな」
完全に理解はしていなくても、エリザベータを見てくれるハロルド。彼と数日一緒にいるから余計にそう思うのかもしれなかった。
いつも読んでくれてありがとうございます!
書ききれれば今日中か日付超えたくらいにもう1話更新します。




